はじめに
ベトナムの風力発電市場は今後、日本企業にとって大きなビジネスチャンスとなるだろう。ベトナム政府は再生可能エネルギーの開発とカーボン・ニュートラル達成に向けた取り組みを着々と進めている。
ベトナムのファム・ミン・チン首相は2020年11月1日、イギリスで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)首脳級会合で、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すと表明した。
ベトナムの電源開発計画を定めた第8次国家電力マスタープラン(PDP8)では、風力発電の開発がますます優先される。
このレポートではベトナムの風力発電市場の現状、課題、打開策、今後の見通しについて詳しく解説していきたい。
ベトナム風力発電市場の概要
まずはベトナムの風力発電市場の概況から見ていきたい。ベトナムは東南アジアの中でも風況がよいエリアに位置し、ベトナム政府によるFIT制度をきっかけに2018年頃から開発が進んでいる。
ベトナムの風況
ベトナムは南北に伸びた3,200km以上の海岸線と約100万平方キロメートルの総海域を有しており、東南アジア地域の中で最も風況の条件が良い国の1つである。陸上風力、洋上風力ともに潜在的な開発ポテンシャルが見込まれる。
ベトナム商工省によれば、ベトナムの推定総風力発電容量は約513,360 MWで、東南アジアで最大である。ベトナムの潜在的な風力発電開発の数値は、タイ(152,392 MW)、ラオス(182,252 MW)、カンボジア(26,000 MW)といった東南アジア諸国より、はるかに大きい。
ベトナムの多くの海域において、100mの高さでの年間平均風速は最大9〜10m/s になる。特に、Phu Quy 島、 Bach Long Vi 島の周辺だけで、それぞれ38GWまでの風力発電可能の容量があると推定されている。
風力発電における外資規制
ベトナムで発電事業を展開する上での外資規制は存在しない。
ベトナム政府が発行した「2020年投資法」(2021年1月1日発効)によると、外国人投資家(日本を含む)は、発電プロジェクトへの投資を規制されていないが、送電・配電では外資規制が存在している。
発電事業においては外資規制が存在しないため、参入可能である。この場合、独立系発電事業者(IPP:Independent Power Producer)のケースが殆どである。
配送電・小売事業では外資系企業は参入不可である。この分野はベトナム電力公社(EVN)の垂直統合となっている。
風力発電の開発状況
2020年のベトナムの電源構成比を見ると、石炭火力(43.6%)、再生可能エネルギー(21.0%)、水力(16.9%)、ガス火力(14.7%)という構成になっている。再生可能エネルギーは、2017年頃には僅か数%程度の規模であったが、現在までに全体の2割を占めるまで拡大した。
ベトナム電力公社(EVN)によれば2021年10月29日時点で、合計容量2131,3MWに相当する42の風力発電所が商業運転開始済み案件として承認されている。2021年10月末はFIT制度の適用期限が迫っているため、非常に重要な数値である。
ベトナム政府による風力発電の開発目標は今後も注視する必要がある。第8次国家電力マスタープランの2021年3月版ドラフト、11月版ドラフトでそれぞれ開発目標は異なっている。
ただし、過剰な開発が進み送電線不足による出力抑制を起こしている太陽光発電と比較して、今後は洋上風力発電、陸上風力発電の開発を優先的に進めていきたいベトナム政府の方針が伺える。
ベトナム政府による陸上風力の開発目標
PDP8ドラフト(11月版)によれば、陸上風力についてベトナム政府は2030年までに17,338MW、2045年までに38,838MWの商業運転開始を目指す計画を立てている。
ベトナム政府による洋上風力の開発目標
PDP8ドラフト(11月版)によれば、陸上風力についてベトナム政府は2030年までに4,000MW、2045年までに36,000MWの商業運転開始を目指す計画を立てている。
ベトナム地域・省別の開発見通し
ベトナム政府による承認待ちの風力発電案件は2021〜25年で11,820MW、2026〜30年で13,820MWあると公表されている。国内外の投資家によって風力発電の開発が進められているものの、多くの案件は承認を待っている状況となっている。
風力発電の開発が特に進められている省としては、Quang Tri(クアンチ省)、Gia Lai(ザライ省)、Dak Lak(ダクラク省)、Ninh Thuan(ニントゥアン省)、Binh Thuan(ビントゥアン省)、Bac Lieu(バクリュウ省)、Ben Tre(ベンチェ省)、Tra Vinh(チャビン省)、Ca Mau(カマウ省)が挙げられる。
それぞれの省の開発状況と今後の見通しについて、ベトナム商工省による公表情報や現地報道から考察していきたい。
Quang Tri(クアンチ省)
商工省は、2015年にクアンチ省における2020年及び2030年までの風力発電開発計画を承認し、これまでに合計設備容量110MWに相当する4つのプロジェクトが実施された。
更に、クアンチ省はベトナム中央政府に84の風力発電プロジェクトの計画を補填することを提案した。総容量は4,030 MWを超えており、そのうち1,177MW に相当する31のプロジェクトについては商工省によって承認されている。
また、合計設備容量が2,853MWを超える53のプロジェクトが、追加承認を求め、商工省に提出された。
Gia Lai(ザライ省)
ザライ省では風況が良好で、多くの地点で風速が6〜8 m/sに達するため、ベトナム国内では特に有望視されている地域である。ザライ省では12,600MWの設備容量に相当する104の風力発電プロジェクトがザライ省人民委員会から首相及び商工省に対して提出されている。
その結果、ベトナム政府は16の風力発電プロジェクトを含む改定第7次国家電力マスタープランにて承認されており、総容量は1,142MWに相当する。
Dak Lak(ダクラク省)
ダクラク省も風力発電の開発ポテンシャルが高い地域とされている。合計のポテンシャル開発容量は約10,000MWに達すると予測されている。内陸の山間部に近いダクラク省であり、今後の開発が期待される地域である。
Ninh Thuan(ニントゥアン省)
ニントゥアン省の2020年及び2030年までの風力発電開発計画によると、省内には5つの開発計画の地域があり、総面積は21,432ヘクタール、設備容量は1,429MWに相当する。
ニントゥアン省には105kmの海岸線と8m/sを超える風況が見込まれ、1,000MWを超える容量の沿岸風力発電プロジェクトを開発することもできると報道されている。
洋上風力発電については、2030年までに15のプロジェクト拠点が開発されており、そのうち2021年から2025年の間に、4つの拠点にて合計1,220 MWに相当する案件が開発され、2026年から2030年の間にさらに11の拠点(3,160MWに相当)が追加的に開発される見通しである。
Binh Thuan(ビントゥアン省)
ビントゥアン省には20の風力発電プロジェクトがあり、総容量は812.5 MWに相当する案件が商工省・首相によって承認されており、省の風力発電開発計画に含まれている。
14のプロジェクトについてはビントゥアン省人民委員会によって投資方針決定の承認が与えられており、総容量は598MWに相当する。2021年5月までに、総容量100 MWのプロジェクトが4つ稼働し、2021年末までに、総容量238MWのプロジェクトがさらに6つ稼働する予定である。
ビントゥアン省では洋上風力発電プロジェクトが特に有望視されており、投資家は、最大22,000MWの総容量を持つ8つの大規模プロジェクトの開発を提案している。
具体的には、Thang Long Windプロジェクト(3,400MW)、ラガン-(3,500MW)、ビントゥアン(5,000MW)、ハムトゥアンナム(900MW)、Co Thach Sea(2,000MW)、 Vinh Phong(1,000 MW)、 AMI AC(1,800MW)、トゥイフォン(4,600MW)である。
Bac Lieu(バクリュウ省)
バクリュウ省は「2020年及び2030までのバクリュウ省風力発電開発計画」を策定しており、商工省によって承認されている。2030年までの商業運転開始済みの案件は2,507MWになると予想されている。
Ben Tre(ベンチェ省)
2020年及び2030年までのベンチェ省の風力発電開発計画も商工省によって承認された。ベンチェ省の風力発電開発のポテンシャルは沿岸本土と沿岸沖積を対象に面積として約39,320ヘクタール、設備容量は1,520MWに相当する。
2020年までのソクチャン省風力発電開発計画によれば、首相によって承認され、これまでに省人民委員会によって承認された総容量として、1,435MWに相当するプロジェクトが20件ある。
Tra Vinh(チャビン省)
チャビン省はこれまで8つの風力発電プロジェクトの投資方針決定を発表している。総容量は570 MW、総投資額は273,000億ドン以上に相当する。建設請負業者の進捗状況によると、今年の10月までに、チャビン省では5つの風力発電プロジェクトが国の送電網に接続する予定である。
Ca Mau(カマウ省)
カマウ省は風力発電の開発地域としては、地理的に非常に有利な位置にある。3つの側面が海に面しており、海岸線は254 kmを超え、広く平坦な大陸棚があるため、風力発電の開発に適している。
沿岸風力プロジェクトの総計画ポテンシャルは3,600MWに相当する。2021年6月の時点で、カマウには合計675MWに当たる11の風力発電プロジェクトが確認されている。さらに、投資政策のために検討中の200 MWの風力発電プロジェクトがあり、2021年から2023年頃に商業運転が開始される予定である。
FIT制度(固定価格買取制度)
ベトナムの風力発電発電においてはFIT制度が制定されている。
ベトナム政府は2018年9月、風力発電のFIT価格の引き上げを定めた首相決定No.39/2018/QD-TTg号(首相決定39号)を公布した。この首相決定39号により、ベトナムの陸上風力発電のFIT価格は1,928ドン(8.5セント)、洋上風力発電発電のFIT価格は2,223ドン(9.8セント)となった。
一方で、このFIT制度は2021年10月末を期限としたものである。新型コロナウイルスの感染拡大が起こる中、FIT制度の延長を求める声は挙げられていたものの、結局ベトナム政府はFIT制度の延長を見送った。現地報道によれば、FIT適用を受けられなかったプロジェクトは62存在するという。
2021年11月1日時点で、ベトナム電力公社(EVN)の発表によれば、現在まで、商業運転運転開始済み案件に加え、PPA契約(買電契約)を締結したプロジェクトの数は146案件で、総容量は8,171MWに相当する。
また、建設が完了し、EVNによる商業運転開始の承認手続きの完了を待っている設備容量は220MW、プロジェクト数にして4案件となっている
一方で、まだ建設されておらず、商業運転開始もされていない案件数は、総容量3,479MWの案件である。この結果、約42%に当たる62事業は期限までに商業運転を始められなかった。
ベトナム風力発電は入札制度へ移行
風力発電に対するFITの適用に関しては、新型コロナウイルスの感染拡大による工事の遅れなどを受けて、再エネ事業者や投資家などからFIT期限の延長(商業運転開始の期限)を先延ばしするよう求める意見が出ていたため、FIT制度は延長されると見込まれていた。
今後、2021年11月以降、ベトナム国内で商業運転開始する風力発電については、入札方式での業者選定に移行する方針がベトナム政府によって示されている。
EVNによれば、2021年8月末時点でFITの適用を申請していた発電所は106事業者だったと発表している。このうち、新型コロナウイルス流行による社会隔離規制が残っていた9月から10月にかけて、駆け込み的に国家電力網への接続を完了させた案件が存在している模様だ。
FIT適用が受けられなかった事業者は、EVNとの間で個別に買い取り価格を決めることになるとされているが、収益率の低下が懸念される。
風力発電の優遇措置・投資奨励
ベトナムで風力発電を開発する投資家は、条件によってベトナム政府が制定する投資優遇措置を受けることができる。具体的には法人税、輸入税、土地賃貸税、付加価値税の減税・免税が適用される。
法人税
商工省通達(No. 78/2014/TT-BTC)に準ずる。事業内容や設立地域の性質に応じて、10%もしくは20%の優遇税率が一定期間適用。また、4年間免税・その後9年間50%減税、4年間免税・その後5年間50%減税、もしくは2年間免税・その後4年間50%減税が適用される)。また、農村部等、政府が定める「経済・社会的に困難な地域」では法人税の優遇税率が一般の地域と比較して更に優遇される。
輸入税
固定資産となる設備を製造するための製品に対する輸入税を免除する。ここでの輸入製品とは、現地で生産されていない材料、資材、および半製品を指す。
土地賃貸税
電力案件、電力系統接続と変電所工事のための土地使用とリース代を減免できる。この土地賃貸税については省級人民委員会が土地収用の保障と補助を行う。
地域や省によって、土地賃貸税の免税を受けられ、建設中の土地の賃貸(土地賃貸契約締結から最大3年間)や建設完了後など状況・条件によって異なるが、追加で11~15年間免税出来る場合もある。
付加価値税(VAT)
プロジェクトの建設中に発生した費用にかかる仕入れ付加価値税は、発電所が商業運転を開始した後に還付される。
送電線の開発状況
ベトナムでは、送電線の開発が増え続ける電力需要に追いついていない状況が続いている。
ベトナム南部の海に接しているニントゥアン(Ninh Thuan)省やビントゥアン(Binh Thuan)省等の日射量条件が良好である地域では、短期間で大規模に太陽光発電が開発されたため、一部の地域で送電線の過負荷を起こした。
そのため、国全体の電力は不足しているが、これらの地域にある発電所は全容量を発電することができない。ベトナム電力公社は出力抑制に関する情報を公表しているが、ニントゥアン(Ninh Thuan)省やビントゥアン(Binh Thuan)では頻繁に出力抑制が行われているため、投資家にとっては売電ができず、大きな機会損失となってしまう。
ベトナムの特徴として、FIT期限が短く、短期間で大規模な電源が同じタイミングで送電線に接続されてしまう傾向があり、これでは送電線不足が起きてしまうのも無理はない。
ベトナム商工省によれば、2011年から2018年の期間に開発された風力発電プロジェクトは3つだけであり、総設備容量は152.3MWに過ぎない。
一方で、ベトナム政府の「決定39/2018 / QD-TTg」(風力発電プロジェクトに対するFIT制度の導入)の後、2020年3月時点で、全国の風力発電の総容量4,800MW、78つの風力発電プロジェクトからFIT申請が実施されたという商工省の公開情報もある。
PDP 7で計画された風力発電の総容量は1,000 MW未満である。つまり、太陽光発電と風力発電の発展は送電線の開発より数倍のスピードで進んでいる。
出力抑制により買電収入が得られないことは投資家にとっては大きなリスクとなる。
ベトナム電力公社(EVN)
ベトナム電力公社(Vietnam Electricity Group、略称:EVN)は、ベトナム最大の国営の電力会社である。 ベトナム電力公社(EVN)は、1994年にベトナム政府によって国営企業として設立され、2010年から正式に有限責任会社として運営されている。
EVNは、独自の大規模水力発電所と石炭火力発電所を運営しており、総設備容量は28,169 MWである。
3つの発電子会社(GENCO 1、2、3)を管理しながら、ベトナムの発電において最大58%のシェアを占めている。 そのほか、1つの送電会社(National Power Transmission Corporation-EVNNPT)、および5つの地域配電会社(北部、中部、南部、およびハノイとホーチミンの2つの大都市各地)を所有している。
ベトナムの代表的な風力発電案件
ベトナム国内で開発される風力発電プロジェクトについて、代表的な事例を見ていきたい。
ベトナム企業が主導する風力発電案件
Ea Nam風力発電所 (TRUNG NAM GROUP)
Ea Nam風力発電所は、ダクラク省Ea H’Leo地区にある土地面積600ヘクタールの発電所である。設計容量は400MWで、84の風力タービンタワー、接続送電線の長さは1.2km(500kV)である。
これはダクラク省の主要な風力発電プロジェクトの1つであり、ベトナムで最大の風力発電プロジェクトである。
Ea Nam風力発電所は2020年12月31日にベトナム商工省とダクラク省の人民委員会によって正式に承認された。
Ea Nam風力発電所の基本情報:
- ベトナム最大の風力発電所
- 容量:400 MW
- 総投資額:16.5兆ドン(7億5000万米ドル)
- 建設面積:6000ヘクタール
- 投資会社:Trung Nam Group
Gelex 1,2,3 風力発電クラスター (GELEX)
Gelex 1,2,3はQuang Trị省における、ベトナム電気設備株式会社(GEX)より投資・開発されている風力発電クラスターである。ベトナム電気設備株式会社(GEX)は1990年に国営企業として設立された。現在まで、GEXはベトナムの最大の電気会社の一つであり、電力インフラと電気設備の製造に主力しているが、近年、太陽光発電、風力発電への投資する事業も拡大している。
現在Gelex 1,2,3 風力発電クラスターは完全に商業運転済みと確認している。
Gelex 1,2,3 風力発電クラスターの基本情報:
- 容量:90 MW
- 総投資額:4兆570億ドン (約2億1000万米ドル)
- 建設面積:未公表
- 投資会社:ベトナム電気設備株式会社(GEX)
Tan Thuan Dong 風力発電所 (TV2)
Tan Thuan Dong 風力発電所の沿岸 (nearshore) 風力発電所は、カマウ省におけるカマウ再生可能エネルギー投資会社の投資によって、投資されたプロジェクトである。 プロジェクトのEPC業者は、電力建設コンサルティング2株式会社(TV2)である。
このプロジェクトの総投資額は3.6兆ドン、設備容量は75MWで、2018年12月27日に商工省によって国家電力マスタープランに追加された。
現在Tan Thuan Dong 風力発電所は完全に商業運転済みと確認している。
Tan Thuan Dong 風力発電所の基本情報:
- 容量:75 MW
- 総投資額:3.6兆ドン(約1.6億米ドル)
- 建設面積:5,000ヘクタール
- 投資会社:ベトナム電気設備株式会社(GEX)
Quoc Vinh Soc Trang 風力発電所 (FECON)
Quoc Vinh Soc Trang風力発電所は、FECON株式会社とEcotech Companyによって共同で投資されている。発電所に6つの風力タービンタワーがあり、各タービンの容量は5MWである。 Quoc Vinh Soc Trang風力発電所は、国の電力システムに約9,750万kWh /年の電力を供給する。
現在Quoc Vinh Soc Trang風力発電所は完全に商業運転済みと確認している。
Quoc Vinh Soc Trang風力発電所の基本情報:
- 容量:30 MW
- 総投資額: 1.4兆ドン(約6360万ドル)
- 建設面積:7.5ha
- 投資会社:FECON株式会社とEcotech Company
7A Thuan Nam 風力発電所 (HA DO GROUP)
7A Thuan Namプロジェクトは、ベトナムの不動産業界での大手の上場企業であるHa Doグループによって投資されている。近年、Ha Doグループは不動産事業以外にも、再生可能エネルギープロジェクトの開発にも注力しており、再生可能エネルギー産業でも大手だと認められている。 7A Thuan Namの設計容量は50MWであり、最新の情報によると、33.4 / 50 MWは10月初旬に商業運転されており、風力発電のFIT価格を適用された。
7A Thuan Nam風力発電所の基本情報:
- 容量:50 MW
- 総投資額: 1兆8,750億ドン(約85.2百万ドル)
- 建設面積:―
- 投資会社:Ha Do グループ (HDG)
日本企業が主導する風力発電案件
クアンチ省陸上風力発電事業(株式会社レノバ)
ベトナムの大手地場企業であるPower Construction Joint Stock Company No. 1と、日本の再生可能エネルギー発電事業者である株式会社レノバが出資するプロジェクトである。
アジア開発銀行(ADB)や国際協力機構(JICA)などから融資を受けており、融資額は合計で1億7300万ドル(約190億円)と報じられている。ADBやJICAがベトナムの陸上風力に融資をするのは、クアンチ省陸上風力発電事業が初めてとされている。
クアンチ風力事業(合計設備容量144.0MW)は2020年10月31日までに、計画通りに商業運転を開始している。
クアンチ省陸上風力発電事業は、リエンラップ(Lien Lap、48.0MW)、フォンフイ(Phong Huy、48.0MW)、フォングエン(Phong Nguyen、48.0MW)の事業区画で構成される。
レノバは2019年よりクアンチ省陸上風力発電事業の検討を開始し、送電線工事で国内最大手の 第1送電線建設(PC1:Power Construction No.1)と共同で開発を進めてきた。
出資会社としては、Power Construction Joint Stock Company No. 1他 60.0%、株式会社レノバ 40.0%となっている
補助金に採択された風力発電案件
環境省では、二国間クレジット制度(JCM)を通じた環境インフラの海外展開を促進しているが、2021年度のJCM制度でも多くのベトナムでの案件が採択されている。
公益財団法人地球環境センターによれば、2021年度中に採択されたベトナムの案件は以下の通りである。太陽光発電、バイオマス発電、廃棄発電の採択事例があるが、2021年11月時点では、ベトナムでの風力発電の採択事例は存在しない。
- JFEエンジニアリング株式会社:バクニン省における廃棄物発電
- 電源開発株式会社:ハウザン省における10MWもみ殻発電プロジェク
- シャープエネルギーソリューション株式会社:工場群への9MW屋根置き太陽光発電システムの導入
- 株式会社遠藤照明:ホーチミン市内オフィスビルへの調光調色型高効率LED照明の導入
- 丸紅株式会社:商業・産業需要家への12MW屋根置き太陽光発電システムの導入
- 大阪ガス株式会社:工業団地への9.8MW 屋根置き太陽光発電システムの導入
- アジアゲートウェイ株式会社:飲料工場への 5.8MW 屋根置き太陽光発電システムの導入
- 関西電力株式会社:食品工場及び衣料品製造工場への2.5MW屋根置き太陽光発電システムの導入
- 東急株式会社:ショッピングセンターへの高効率チラー及び調光型高効率LED
こうしてみると、ベトナムでの採択案件は屋根置き型太陽光発電の案件が割合として多いことが伺える。
風力発電は、案件の金額規模が大きいことが課題の1つとなるだろう。
ベトナム風力発電の今後の見通し
最後にベトナム風力発電の2022年以降の見通しについても述べておきたい。抑えておくべきキーワードとして、「洋上風力発電」、「DPPA」が挙げられる。DPPAについては今後のベトナム電力・再生可能エネルギー市場を見る上でも重要なポイントである。
洋上風力発電の開発のポテンシャル
今後、ベトナムの風力発電市場では洋上風力発電が注目される。
世界銀行の調査によれば、ベトナムには理論上、475GWの洋上風力発電の可能性があるとされている。また、デンマークエネルギー庁によると、ベトナムは162GWの事実上に実現する可能性があると述べられている。
更に、近年になり、ベトナムでの洋上風力発電のコストが急減する傾向がある。
世界風力協会(GWEC)のレポートによると、2010年の洋上風力発電の価格は255 USD / MWhだったが、2020年までに83 USD(67.5%減)になり、2025年には58USDに達すると予想されており、更に 30.1%に減少する可能性がある。ベトナムで風力発電の開発における、M&Eや設備等ローカリゼーション率(国内化)は最大50%で、外国投資家にとってコスト削減に大きな利点を持つと考えられる。
直接電力買取契約(DPPA)
ベトナム政府内で直接電力買い取り契約(DPPA)の正式な導入に向けて議論が進んでいる。従来のベトナム電力市場では、ベトナム電力公社(EVN)が唯一の電力購入者となる取引のみが想定されていた。しかし、DPPA制度が導入されれば、電力事業者は電力需要者に対して直接買い取り契約を締結することができる。
2020年4月、ベトナム商工省は、再生可能エネルギー発電事業者と電力使用者間の直接電力買い取り契約(DPPA)制度の試行に向けた規定の草案を公表し、意見を求めた。既に試験的な動きも始まっている。
最後に
ベトナムの風力発電は2021年10月末にFIT期限が切れたことによる入札制度への以降、送電線不足といった課題があるものの、ベトナム政府は今後も風力発電の開発を進める方針である。
今後はメコンデルタ地域沿岸部での洋上風力発電、中部高原地域での陸上風力発電の開発が進んでいくだろう。
ベトナムの現地有望パートナーの探索や、ベトナムで開発が進む風力発電プロジェクトのリストアップ、サプライチェーン等、ベトナムの風力発電について詳細情報をお求めの方は是非ご連絡いただければ幸いである。
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