はじめに:ベトナムとはどんな国?
ベトナムは東南アジアに属する国で、人口増・経済発展目覚ましい新興国である。ベトナムのGDPは、2000年からの20年間で約9倍になっている。
人口は毎年安定的に増加しており、若く豊富な労働力と拡大し続ける消費市場が、ベトナム経済の大きな魅力である。
ベトナムは地理的・文化的に日本に近いと言われており、いわゆる親日国としても有名だ。日本企業はベトナムに多く進出しており、日本製品はベトナム人にとっても信頼できるブランドである。日本のアニメや漫画の人気も根強く、子どもだけでなく大人のファンも増加傾向にある。加えて、日本語を学習するベトナム人も近年増加しており、2016年には小学校での日本語教育が導入された。
このようにベトナムは、「経済発展著しい親日国」として位置づけることが出来る。本レポートではベトナムという国について紹介していく。人口・国土から、文化・政治・経済といったところまで網羅的に紹介する。
ベトナムの人口
ベトナムの人口は、2021年時点で約9851万人である。戦後のベビーブームから人口が増加し続けており、2040年代には日本の人口を追い抜くという試算もある。
ベトナム人口構成比
ベトナムの男女比は、2021年には女性が50.2%、男性が49.8%であり、ほとんど同じで女性がわずかに多い。
ベトナム人口のうち、都市部に居住しているのは2021年時点で37.1%である。残りの62.9%は、いわゆる田舎に住んでいる。ベトナムの都市人口比率は毎年増加しており、2020年もコロナ禍にかかわらず増加した。2035年には、都市人口比率が50%を超えると予想されている。
ベトナムの15歳以上の労働人口は、2021年時点で5050万人に達する。
ベトナムの平均寿命は約74歳である。ベトナムでは満60歳以上を「高齢者」と定義づけており、人口の12%が高齢者であるとされている。ベトナムは既に「高齢化社会」と呼ばれる水準に達している。ベトナムの人口はまだ増加しているが、高齢化の進行は社会課題の一つだ。
ベトナムの国土
ベトナムの国土は日本に非常によく似た形をしている。面積は約33万平方キロメートルで、日本から九州を取り除いた程度である。多くの山岳地と長い海岸線を有している点も、日本に似ていると言える。
日本は47都道府県に分けられるが、ベトナムは63省市に分けられる。5つの中央政府直轄市と、58の省だ。
地理的な区分について、本レポートでは2つの諸島を含めて10個に分類した。本章では、ベトナムの10の地理的区分について紹介する。
東北部・西北部
ベトナム東北部は、中国と正対する位置である。歴史的には、中越戦争の際などに中国軍の侵攻のルートとなっていた。現在では中国との貿易・経済関係が発展している影響を受け、隣り合う西北部と比較すると、平均収入が高い地域である。
東北部の主要都市としてランソン省が挙げられる。ランソン省は中国に隣接し、交通インフラの整備が進んでいることが特徴である。ベトナムの首都ハノイと繋がる道路や中国へ向かう国際鉄道等があり、前述の中国との貿易で栄えている。
本段落ではベトナム西北部も併せて紹介する。
西北部は中国だけでなくラオスとも隣接する地方であり、山岳地帯である。ベトナムで最も標高の高いファンシーパン山は、西北部のラオカイ省に位置する。
西北部はベトナムの中では比較的発展が進んでいない地域であり、平均収入も隣接する紅河デルタ地方と比較すると半分程度に留まる。
紅河デルタ地域
紅河(こうが)デルタ地域はベトナムの首都であるハノイ市と、ベトナム最大級の港湾都市であるハイフォン市の2つの中央政府直轄市を含む地域である。
ハノイ市はベトナムの首都であり、ベトナムで2番目の経済都市である。1番目は、後述する東南部のホーチミン市である。ハノイ市は文化・政治の街と称されることもあり、多数の観光地、政府機関がある。政治の中心地ということで、近年では外資系企業の拠点としての人気がホーチミン市より高まりつつある。ベトナム政府も、ハノイ市を首都らしい国内トップの経済都市にするという宣言をしている。
ハイフォン市はベトナム最大級の港湾都市であり、ハノイ・ホーチミンに続きベトナム第3の経済都市である。北部最大の港であるハイフォン港は、アジア諸国への直行便が運航されており、貿易において重要な役割を果たしている。
北中部
ベトナム北中部は、ベトナムで最も東西の幅が短い、細い部分である。そのため、南北対立の境界になることが複数回あった。
また北中部はラオスとの交流が盛んで、タイに陸路で行き来することも容易であるが、平均収入は西北部の次に低い水準である。
ベトナム建国の父とされているホー・チ・ミンの出身は、北中部のゲアン省である。
また、北中部のトゥアンティエン・フエ省の省都であるフエは、ベトナム最後の王朝であるグエン朝の都である。日本で言うところの京都のような位置付けで、多くの史跡が残されている。
南中部沿岸地域
南中部沿岸地域には、中部最大の都市であるダナン市がある。北部にある首都ハノイと、南部にある国内最大都市ホーチミンを行き来する際の経由地である。加えて、大型の港や国際空港も有しており、ベトナム国内外の人流・物流の要と言える。
また、ベトナムでは風力発電が盛んであるが、沿岸南中部に属するニントゥアン省とビントゥアン省は特に風況が良く、電源開発が集中している。
南中部高原地域
南中部高原地域は、ラオス・カンボジアと隣接している。ベトナムは世界2位のコーヒー生産量を誇るが、その多くはこの南中部高原地域で生産されている。ベトナム国内で最も多くコーヒーを生産している上位3省は、ダクラク省、ラムドン省、ダクノン省であるが、この全てが南中部高原地域に属する。この3省はコーヒー以外にも多くの農産物を生産している。
山岳高原地域としては、先述の東北部・西北部よりも豊かな地域である。
東南部
東南部には、ベトナム最大の経済都市であるホーチミン市がある。人口も最も多い。「サイゴン」は都市の旧名であるが、現在のホーチミン市は旧サイゴン地区とザーディン地区を併せたものなので、市の中心である旧サイゴン地区は現在もサイゴンと呼ばれる。
ホーチミン市のGDPはベトナム全体の3分の1に相当し、あらゆる産業の国内シェアが高い。また、多くの外資系企業が拠点を構えている、東南アジア有数の世界都市である。
ホーチミン市以外にもビンズオン省、ドンナイ省、バリア・ブンタウ省といった周辺の省も経済が発展しており、東南部はベトナムで最も豊かな地域である。
メコンデルタ地域
東南アジア最長の川であるメコン川河口の地域一帯が、メコンデルタと呼ばれている。メコンデルタ地域は肥沃な土壌が続いており、「ベトナムの穀倉」と呼ばれるほど農業が盛んである。ベトナムは世界2位のコメ輸出国であるが、ベトナムのコメ生産量の半分以上がメコンデルタ地域で生産される。
メコンデルタ地域最大の都市は、政府直轄市であるカントー市である。カントー市はメコン川最大の支流であるハウザンに面している。
また、カントー市には空港や複数の工業団地があり、農業だけでなくインフラも整っているため、今後の経済発展の伸び率が高いと見込まれている。
ベトナムの気候
本章ではベトナムの気候について紹介する。ベトナムは一般的に、「常夏」というイメージを抱かれがちだが、それは半分だけ正しいと言える。ベトナム中部以南は熱帯モンスーン地域に属し常夏だが、北部は亜熱帯気候に属し、緩やかな四季が存在する。
北部
ベトナム北部には緩やかな四季が存在する。首都のハノイ市では、1月の平均最低気温は13, 14℃程度である。年間の平均気温は、24℃程度である。また、北部では降雪が見られることもある。ラオカイ省のサパという観光地では、2013年に30センチの積雪が記録されたこともある。
中部以南
ベトナム中部より南は、いわゆる常夏である。季節は雨の多い「雨季」と「乾季」に分かれる。雨季は5~10月、乾季は11月~4月である。気温での季節区分は無く、1年を通して気温が高い。南部のホーチミン市では、1年の平均気温が26~28℃程度である。
ベトナムの民族
ベトナムは多民族国家である。ベトナム人の約90%はキン族という民族であるが、政府公認の民族の数は54にも上る。つまり人口の10%に53の民族が存在している構造だ。
ベトナムよりもはるかに広大な国土を持つ中国で認められている民族数が55であることを考えると、ベトナムの民族数はかなり多いと言える。少数民族の多くは北部や中部の山岳地帯に暮らしている。
少数民族の暮らしや文化を保護することは重要であるが、一方で社会参加が希薄なものとなり、比較的収入が低くなってしまっている現状もある。ベトナム政府は国会に少数民族出身者の議席を確保するなどして、接点を増やそうとしている。
ベトナムの宗教
ベトナムでは様々な宗教が進行されている。ベトナム政府は仏教、キリスト教、イスラム教、ベトナムの新興宗教であるカオダイ教とホアハオ教の6つを認めている。もちろん、この政府公認の6つ以外の宗教を信仰しているベトナム人もいる。
ベトナムで最も信者が多いのは仏教(大乗仏教)であり、全人口の約13%を占める。実際のベトナム国民の価値観は、仏教に儒教と道教が混ざったものだとも言われている。
次点で多いのはキリスト教で、カトリックとプロテスタントを合わせて全人口の10%弱が信者である。そのため、ベトナムの町には多くの教会がある。
新興宗教のカオダイ教は、20世紀に誕生した、五教(仏教、儒教、道教、キリスト教、イスラム教)の教義を土台にしていることが特徴で、信者数は300万人前後とされている。
同じく新興宗教のホアハオ教も、20世紀にチャドック省のホアハオ省で生まれた。信者数は約200万人と言われている。
ベトナムの文化
ベトナムは中国と隣しており、文化面で強い影響を受けている。例えば中国では旧正月を「春節」と呼び祝う風習があるが、ベトナムも旧正月を「テト」と呼び、祝う風習がある。
もちろん、人々の性格や言語等中国と異なる部分は数多くある。中国の影響を受けつつも、独自の文化を育んできたのだ。
ベトナム人の性格
ベトナム人の性格を表す際に、昔からよく言われている「4k」というものがある。器用、向学心旺盛、近視眼的、かかあ天下の4つだ。
向学心旺盛というのは、言い換えれば親孝行の気持ちが強いということである。実際に、日本では多くのベトナム人が働いているが、給料の9割を仕送りしているというケースもある。
近視眼というのは、短期的な利益を追いかけがちであるということだ。反対に、行動力のある人が多いとも言える。
かかあ天下、というのはやや砕けた言い方であるが、言い換えれば「女性が強い」である。仕事でも家庭でも、女性がリーダーになるケースが多いと言える。
仕事の面では、「時間にややルーズ」という点が挙げられる。決められた時間より少し遅れるというのはベトナムでは普通であるため、ベトナムでビジネスをする際にはまずこの点に気を配る必要がある。
ベトナム語
ベトナムでは、ベトナム語が話されている。特徴として、まずは日本語と文法規則が異なる。日本語はいわゆるSOV言語であるが、ベトナム語はSVO言語である。「私は犬が好き」と言いたい場合、ベトナム語では「私は好き犬が」という語順となる。
もう一つベトナム語の特徴として、「声調」が挙げられる。声調とは声の抑揚のことで、これが異なるだけで単語の意味も大きく変わる。記述する際には声調記号が用いられる。
例えばベトナム語の「cho」は「与える」、「chó」は「犬」、「chờ」は「待つ」、「chợ」で「市場」を意味する。
現在のベトナム語はアルファベット表記だが、元々は漢字表記の言語である。17世紀ごろにキリスト教イエズス会の宣教師が、ベトナムでの布教のためにアルファベット表記を考案したことがきっかけである。
そのためベトナム語の語彙の70%は漢語に由来すると言われている。加えて、ベトナム語は日本語の影響も受けている。中国から日本に伝わった漢字が日本で独特の発展をし、それが中国に伝わって、ベトナムにも伝わったのだ。
そのため、ベトナム語と日本語には非常に似た単語が見られる。例えば、
日本語 | ベトナム語 |
同意 | Đồng ý(ドンイー) |
結果 | kết quả(ケックァー) |
大使館 | đại sứ quán(ダイスーカン) |
中国 | Trung Quốc(チュンコック) |
などが挙げられる。
ベトナム伝統衣装
ベトナムにはアオザイという伝統衣装がある。ベトナム語表記は「Áo dài」であり、直訳すると「長い上着」である。様々なカラーバリエーションがあり、身体のラインに沿った美しいシルエットが特徴的だ。アオザイは普段着ではなく正装であるため、イベントごとで着用することが普通であるが、一部のサービス業では制服として定められている。
特に海外からの観光客と接する航空会社やホテル、観光スポット付近でよく見られる。加えて、学校制服として採用される場合も多い。
アオザイと言えば女性用のイメージが強いが、男性用もある。
歴史的には、紀元前には既にアオザイの原型が見られたとされている。現在の形状に近づいたのは、18世紀頃である。
ベトナム伝統料理
ベトナムには独自に発達したベトナム料理がある。日本ではいわゆる「エスニック料理」に分類される。日本でも有名なものとしては、バインミーやフォーが挙げられる。
バインミーは、バゲットに肉のパテを塗り、さらに肉や野菜を挟み込んだ、いわゆるベトナム風サンドイッチである。ベトナムでは道端の屋台で売られる光景がよく見られる。
フォーは米粉で出来た麺が特徴のラーメンやうどんのような料理である。牛ベースの「フォーボー」と、鶏ベースの「フォーガー」の2つに大別される。ネギやパクチー、ライム等を加える場合が多い。
フォーはベトナムのソウルフードと言えるが、家庭料理ではなく基本的には外食で食べるものである。
ベトナムの経済
ベトナムは外資系企業の製造拠点として発展してきた。「世界の工場」と呼ばれ、多くの企業が製造拠点を有している中国だが、人件費向上や米中貿易摩擦など、以前から様々なリスクが散見されるようになった。そこで中国以外の国に製造拠点を移す「チャイナプラスワン」という考え方が広まったが、ベトナムはその受け皿として特に人気を集めた国である。豊富な若い労働力を持ちつつ、人件費が中国よりも一回り安かったからだ。
こうして多くの外資系企業の製造拠点として発展したベトナム経済では、近年消費市場としても注目を集め始めている。経済発展に伴い、ベトナムの人々の所得が増加し、いわゆる富裕層と中間層が拡大した。その結果、以前よりも高価な商品でも多く売れるようになり、再び外資系企業から注目が集まっている。
概況
ベトナムのGDPは毎年プラス成長を続けており、20年で約9倍になっている。ここ10年では、毎年プラス5%以上、最大で7%以上の成長を続けていた。2020年には世界的なコロナ禍で多くの国のGDPがマイナス推移となった中、ベトナムはコロナウイルスの蔓延を抑え込み、プラス2.9%の成長を遂げた。
2021年上半期には、ベトナムのGDPは5.6%という高い成長率を見せたが、新型コロナデルタ株の登場による夏以降の感染拡大を受け、最終的には2.6%と、プラスではあるが前年を少し下回る成長率となった。
しかし、2021年内のGDP推移を四半期別で見ると、第1四半期にはプラス4.7%、第2ではプラス6.7%、第3では大きく下落しマイナス6%となったが、第4ではプラス5.2%と、大幅なV字回復を見せているため、2022年のベトナム経済も十分成長の可能性は高いだろう。
2021年のベトナムGDPの構成比率は、サービス業が約41%、製造業・建設業が約38%、農林水産業が約12%、製品税が約9%であった。ここ数年の傾向として、農林水産業と製品税の比率が下がり、製造業・建設業とサービス業の比率が上昇している。
ベトナム人平均年収
ベトナム統計総局のデータによると、2019年の国内の平均年収は41万円となっている。2010年時点では18.4万円なので、10年間で約2.2倍に上昇している。
最も平均年収が高い業界は「金融・銀行・保険」であり、55.3万円だ。また、先述の通り地域によっても平均収入は大きく変動する。ハノイやホーチミンのような大都市とその周りは高く、反対に山岳地域では低くなる。
ベトナム貿易動向
貿易はベトナムの経済成長を考察するうえで欠かせない要素である。前述の通りベトナムは外資系企業の製造拠点として製品を製造し、それを国外へ輸出し成長してきたからだ。
ベトナムの貿易が急激に発達したのは主にここ10年前後のことである。特に2016年以降は途切れることなく貿易黒字を計上し続けてきたが、2021年8月末に貿易赤字を久しぶりに記録した。しかし2021年全体では黒字を計上しており、輸入量も輸出量も両方増加した。
相手国と取り扱い品目
ベトナムの主な貿易相手国として、輸出と輸入両方を鑑みた割合では、最も大きなシェアを占めるのが中国で24.8%、次点でアメリカが16.6%、韓国が11.7%、ASEANが10.5%、EUが8.5%、日本が6.4%、その他の国が21.5%である。
主な輸出品目として、最も多いのは携帯電話・同部品、次点でコンピュータ等電子製品・同部品、そして機械設備が続く。ベトナムはこのような機械・電子製品が非常に多いが、他にも衣料品や農林水産物などもベトナムの主要輸出品目である。
主な輸入品目としては、コンピュータ等電子製品・同部品が最も多く、次点で機械設備・同部品、3番目には携帯電話・同部品が続く。輸出品目と全く同じ品目たちであるが、この貿易品目にはそれぞれの部品が含まれているため、「部品を輸入して、それを組み立てて製品として輸出する」という構造が考えられる。
日本企業のベトナム進出動向
ベトナムでは以前から日本企業の進出が目立つ。ベトナムにはハノイ、ダナン、ホーチミンの3カ所に日本の商工会議所が存在する。
2022年1月時点で、ハノイの商工会議所には789社、ホーチミンには1060社、ダナン(2019年時点)には130社登録されており、合計で1939社に達する。もちろん、この3つの商工会議所に登録していない日系企業もあるため、これは進出した日系企業の最低数と言える。実態としては、2500社程度だと推定されている。ASEANの他の国と比較しても、ベトナムへの日系企業進出数はトップクラスに多い。
ベトナムに進出した日本企業の例
日系企業のベトナム進出のパイオニアとなったのは1990年代に進出していたTOYOTA、YAMAHA、HONDAといった自動車・バイクメーカーである。特にベトナムにはバイクが多いので、YAMAHA、HONDAは町中でよく目にする名前である。
その後に続いたのは大手の家電、製薬、食品メーカーである。シャープ、パナソニック、ソニー、東芝などの電機メーカーはベトナムでも広く知られている。
製薬に関しては、殺虫剤のアース製薬、目薬で知られるロート製薬、湿布の「サロンパス」で知られる久光製薬などが代表的な例である。特に久光製薬のサロンパスは、湿布自体の代名詞と言えるほど浸透している。
食品に関しては、即席ラーメンを主力とするエースコックが、ベトナム市場のパイオニアである。90年代前半に進出したエースコックは徹底的なローカライズを行い、進出から数年後に発売した「ハオハオ」ラーメンはベトナム国内で300億食を突破し、ベトナムで最も販売数の多い即席めんとなった。
このように、早くからベトナムに進出している日系企業の多くは、製造業・メーカーである。
今後の見込み
ベトナムへの日系企業の進出は、今後も増加すると見込まれている。進出方法の1つとしてM&Aがあるが、ベトナムにおける2020年のM&A取扱額は、コロナ禍にも関わらず過去最大を記録した。前年比では約4倍である。
これまでのベトナムは製造拠点として発展してきたので製造業での進出が多かったが、近年では小売業や金融業での進出が増加している。
今後の注目分野としては、不動産、物流、再生可能エネルギー、小売が挙げられる。
日本企業がベトナムを選ぶ理由
日本企業がベトナムに進出する理由は、大きく分けて2つある。
1つ目は、既に日本国内の市場が縮小していることが挙げられる。2021年時点での日本の平均年齢は48.4歳であり、今後も上がり続けていくことが予想されている。内需の減少は、避けられない事態である。また、既に進出している日本企業の活躍によって、「日本ブランド」が確立されているという点もある。
2つ目は、日本企業にとってM&Aが以前ほどハードルの高いものではなくなったという理由が挙げられる。M&Aを支援するコンサルティングやマッチングポータルサイトなど、M&Aを促進させるサービスが多く登場している。また、オンライン会議の普及等も追い風である。
特に多くの余剰資金を抱えている企業は積極的に海外投資を行い、キャピタルゲイン・インカムゲインを得ることを目指している。
ベトナムの政治
ベトナムは共産党の一党政治であり、「ベトナム社会主義共和国」と国名でも社会主義を謳っている。その一方で貧富の差が生じていることを疑問に思う人は多いだろう。
「平等かつ公正な社会を実現する」は理想である。ベトナム独立戦争の後、ベトナムはこの理想を追求した社会主義計画経済を実施した。しかし次第に行き詰まり、1987年のドイモイ政策実施以降は市場経済を導入した。
個人間の平等よりも国全体の経済発展に重点を置き、豊かになれる人から豊かになっていく経済体制へと変わっていった。 ベトナム共産党が主張するところでは、ベトナムの社会主義は末達成であり、達成への過程として、社会主義志向型市場経済が実施されている。その結果、資本主義国のように貧富の差が生じている。
ベトナム共産党の体制
日本国憲法の第1章では天皇について定めているが、ベトナム憲法の第1章には共産党について定めてある。ベトナムでは共産党以外の政党は全て違憲となる。
ベトナム共産党は集団指導制を用いており、党員は約510万人である。一方で、中国や北朝鮮ほど明確なトップは存在しないことが特徴である。
共産党は政治4役(党書記長、国家主席、首相、国会議長)を設けている。この4名が実質的な共産党のトップであり、思想やキャリア、出身地のバランスを考慮して選出される。一応、先述の党書記長、国家主席、首相、国会議長という順番で序列があり、党書記長がベトナムの最高指導者とされるが、独裁的な権力は持たない。
最後に
このレポートでは、ベトナムという国の基礎について網羅的に紹介した。
まずベトナムの人口は安定的に増加しており、2040年代には日本を追い越すとも言われている。構造的には若者が多いが、徐々に高齢者の割合が増加し始めている。
ベトナムの地理的区分は大きく8つに分けられる。首都のハノイ市は北部の紅河デルタ地域に属し、ベトナム最大の経済都市であるホーチミン市は東南部に属し、ベトナム第3の都市であるダナンは南北の中継地点である中部に位置する。ベトナムに53ある少数民族の多くは北中部の山岳地帯で生活している。
ベトナムの気候は北部と中部以南で大きく2つに分かれる。ベトナム北部は亜熱帯気候に属しているため緩やかな四季が存在し、降雪が見られることもある。一方で中部以南は熱帯モンスーン気候に属し、1年中気温が高く、いわゆる常夏である。季節は雨が多い雨季と乾季の2つに分けられる。
ベトナムは文化的に中国の影響を強く受けており、宗教面でも仏教徒がもっとも多い。ベトナム語も元々は漢字表記で、語彙の7割は漢語由来であり、日本語との共通点も散見される。
ベトナムの経済は外資企業の製造拠点として発展してきたが、近年では消費市場としてのポテンシャルが注目されている。経済発展に伴い国民所得が増加し、富裕層と中間層が拡大したことが理由である。
ベトナムのGDPは毎年プラス成長を続け、20年で約9倍になった。2021年のベトナムGDPの構成比率は、サービス業が約41%、製造業・建設業が約38%、農林水産業が約12%、製品税が約9%であった。傾向として、製造業・建設業とサービス業の比率が上昇している。
貿易はベトナムにとって非常に重要な要素である。ベトナムの主な取扱品目は、携帯電話、電子機器、機械設備など工業系の製品が多く、部品を輸入して組み立て、製品を輸出するケースが多いと考えられる。主な取引国は中国とアメリカである。
ベトナムには以前から日本企業の進出が目立っており、最低でも1939社が進出している。これまでは自動車・バイク、電機、製薬、食品分野といった製造業の進出が主流であったが、今後は不動産、物流、再生可能エネルギー、小売での進出が増加すると見込まれている。
ベトナムは社会主義国で、共産党の一党政治である。一方で貧富の差が存在するのは、ドイモイ政策によって市場経済が導入されているからである。ベトナム共産党の特徴として、中国や北朝鮮ほど個人の権力が強くないことである。ベトナム共産党には4人のトップがいる。
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