はじめに
ベトナムでは人口増加、経済発展に伴う生活スタイルの変化、消費の拡大、都市化、工業化といった背景もと、廃棄物の発生量が増加。廃棄物処理インフラの整備が追いつかず、ごみ問題が深刻な社会問題となっている。
ベトナムの人口は2020年時点で約9,672万人である。これは世界で15番目であり、インドネシアとフィリピンに次いで東南アジアで3番目である。ベトナムの人口は毎年安定的に増加しており、2040年代には日本の人口を追い抜くとされている。
ベトナムでは、人口増とそれに伴う経済発展、都市化、工業化が急速に進んでいる。その結果、最終処分場の確保が困難になるほど、様々な廃棄物が増加している。
ベトナムの廃棄物処理においては現状、多くの課題がある。地方の廃棄物回収率が高くないことや、分別ルール・関連法が未整備であること、インフラが未発達なことなどが挙げられる。
ただ、ベトナムが抱えている課題の多くは、日本を始めとする先進国のノウハウ・技術で解決可能な問題が多い。日本の廃棄物関連企業にとって、ベトナムは有望な市場となり得る。
本レポートでは、ベトナムの既存の廃棄物処理方法を比較し、市場の現状と課題を明確に整理し、紹介していく。
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ベトナムでの基本的な廃棄物分類
まず、ベトナムの固形廃棄物の分類について整理しておきたい。ベトナムの固形廃棄物は、大きく分けて4種類に分類される。生活廃棄物、産業廃棄物、建築廃棄物、医療廃棄物の4つである。
固形廃棄物とは、生活、事業、建築、医療行為から排出された固形のごみまたはスラグ(鉱滓)、スラッジ(汚泥)である。具体的には包装類、ビニール袋、紙などがある。
ベトナム天然資源環境省、環境総局によると、生活廃棄物と産業廃棄物の量は特に大きく増加している。
生活廃棄物
ベトナムの生活廃棄物は主に有機性で、灰分が少なく総重量が多い。表にすると以下のとおりである。
有機性ゴミ | 約60% |
高湿度 | 約65 – 95% |
灰分 | 約25 – 30% (総重量) |
総揮発性固形物(total volatile solids) | 約70 – 75% (総重量) |
熱量 | 約900 – 1.000 Kcal/kg |
廃棄物の組成分析を通じて、ベトナムの都市住民のライフスタイルが大きく変化していることが判明している。2020年に発表されたベトナム環境報告書によると、以前は生活廃棄物中の易分解性有機物が80-96%という高い割合を占めていたが、2017年には50-70%まで減少していた。
これは端的に言うと、ベトナムで廃棄されるプラスチックの量が大きく増加していることを表しておりいる。
ベトナムでは経済発展・都市化によって、伝統的な市場でなく、都市部を中心にスーパーマーケットやコンビニなどの現代的な小売店が人気を集め、店舗数は大きく増加している。ベトナムのプラスチックごみが増加している大きな原因である。
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産業廃棄物
産業廃棄物は、食品加工・包装、印刷、冶金、建材や電子機器の製造など、さまざまな活動を通じて、工場や企業の生産といった事業の過程で発生する。
産業廃棄物はさらに、通常産業廃棄物と有害産業廃棄物の2つに分けられる。
通常産業廃棄物
産業固形廃棄物は、主に約2,500万トン(2019年)の産業生産施設から発生する。 2019年、石炭火力発電所から発生する灰とスラグの量は約1,300万トンだった。 灰とスラグの消費量は650万トンを超え、総排出量の50%以上を占めている(2018年の約39.5%と比較して)。 アッシュスラグは、主にセメント工場の直接原料、未燃レンガ製造、コンクリート混和剤、基礎レベリング材として使用されている。
有害産業固形廃棄
有毒物質、液体の化学物質が含まれ、火災、爆発、中毒など人体への悪影響を引き起こしやすく、他の物質を腐食しやすい。現地の報告によると、2019年に発生した有害産業廃棄物は主に軽工業、冶金、化学から発生しており、約1,133,077トンに達する。これは2018年と比較すると、258,688トンの増加である、
建設固形廃棄物
建設廃棄物とは、建造物の調査、新築工事、改修、解体等で発生する。また、工事に伴う資材移動の際に発生するごみも含まれる。
医療廃棄物
医療廃棄物は、病院、入院施設、研究所、診療所など医療分野の活動から排出される廃棄物である。一般的に、医療廃棄物は危険なバクテリアやウイルスで汚染されている可能性が高い。これらは人間の疾病の原因となったり、自然環境を汚染する可能性がある。
現在、ベトナムにおける廃棄物処理の最先端手法は、医療廃棄物に使用されている。例えば焼却、マイクロ波、化学薬品の使用などが挙げられる。
都市部および農村部における生活廃棄物の発生状況
ベトナムで排出される廃棄物のうち、最も量が多い廃棄物は生活廃棄物である。人口増加と都市化を踏まえると、今後さらに量が増加する可能性が高い。
本章では、ベトナムの生活廃棄物をさらに掘り下げて紹介する。
生活廃棄物の総排出量
ベトナム環境総局(天然資源環境省)によると、生活廃棄物の量は年々増加しており、環境に大きな圧力をかけている。 現在、全国の生活廃棄物の発生量は約6万トン/日と推定されており、そのうち都市部が6割を占めている。 2025年までに、国内の固形廃棄物の発生量は毎年10〜16%増加すると予測されている。
2030年までに、ベトナムは1日あたり10万トン近くの廃棄物を発生させると予測されている。 2011年の全国環境報告書によると、全国で発生する生活廃棄物の総量は約44,400トン/日だ。 2019年には、この数字は64,658トン/日(都市部は35,624トン/日、農村部は28,394トン/日)となっており、2010年と比較して46%増加している。
現在の速度で増加し続けると、ベトナムの廃棄物量は2025年には75,088トン/日、2030年には99,780トン/日に達する。
地域別の生活廃棄物排出量
都市部で発生する生活廃棄物の総量は、農村部よりもはるかに多い。 実際に、2019年の都市部の廃棄物量は、前述の通り35,624トン/日(1,300万/年に相当)であり、これは国内の生活廃棄物量の55%に相当する。
都市別ではホーチミン市が最も廃棄物を排出しており、続いて2番目はハノイ市である。 これら2つの都市だけでも、1日あたりの生活廃棄物発生量は12,000トンに達し、全国の発生量の33.6%を占めている。
農村部で発生する固形廃棄物の量は、2011年の18,200トン/日から、2019年には先述の28,394トン/日へと増加している。農村部の人口は都市部の2倍であるが、発生する生活廃棄物の量はベトナム全国の約45%に過ぎない。
生活廃棄物の収集、輸送、処理のプロセス
都市部では、生活廃棄物は通常、一定の日時に収集される。収集者は手動車両を使用して、廃棄物を収集ポイントに移送し、そこでトラックに積み込む。処理施設に運搬し、処理を行う。
農村部では、多くの地域に自主管理グループや女性組合があり、一定の頻度で廃棄物を収集する。収集ポイントに集積された廃棄物を運搬事業者が処理施設に運搬する。
ベトナムの廃棄物処理方法
ベトナム天然資源環境省の統計によると、現在、ベトナム全国に1,322の生活廃棄物処理施設が存在する。381の固形廃棄物焼却炉、37の堆肥化生産ライン、904の埋立地という内訳である。
一部の施設では、固形廃棄物を燃焼させて発電用エネルギーを生成したり、複数の処理方法を組み合わせるなどしている。
埋め立て
ベトナムでは、廃棄物は主に埋め立て処分されている。標準的な埋立地を建設するコストは非常に高く、埋立地ごとに数千億ドンが費やされている。建設費だけでなく、使用中の整地、化学薬品の脱臭、ハエ除去、浸出液の処理などに係る運営費も必要となってくる。浸出液処理の推定コストは、35,000VNDから40,000VND / m3である。
統計によると、現在、755都市のうち(町以上)都市部の80-85%が不衛生な埋立地を使用しており、深刻な環境汚染に繋がっているとされている。
そのため近年では、都市部の大規模埋め立て処分場での環境汚染により、埋め立て処分場周辺に住む人々から訴訟や抗議が行われるケースも散見される。
しかし、ベトナムには、低海抜地域だけでなく山岳地域にも埋立地を作ることが出来る土地が少ない。したがって、現状の処理方法を変革することがベトナムにとって良い選択肢である
コンポスト
これは、有機性廃棄物を微生物肥料に変換する生物学的堆肥化の方法である。 ベトナムは生物学的堆肥化法によって、有機廃棄物を処理する多くの技術が利用できる。これには、ベトナム国外で開発され、輸入された技術や設備も含まれ、ベトナム国内では多くの有機性廃棄物処理プラントが建設され稼働している。
ベトナム国内の有機廃棄物処理プラントの例として、Viet Tri廃棄物処理プラント(Phu Tho)、Cau Dien(ハノイ)、Hoc Mon(ホーチミン市)、Khanh Son(ダナン)などが挙げられる。
ただし、この技術には、次のような解決が困難な課題が未だ多く存在する。
- 不適切な収集と分類:日常生活からの有機廃棄物の収集、分類、および処理は、各地域の複数の異なる事業者に割り当てられているケースがある。 したがって、収集者と処理者の間の調整が難しく、一貫性がない。
- ベトナムで製造が困難な機器や機械、特にクラッシャーシステムやコンベヤーチェーンなど:これらのシステムは常に発酵ゴミと接触し腐食しやすいため、耐用年数が短めである。 部品が損傷によっては、ライン全体が中止される場合がある。
- バイオガスからエネルギーを回収する方法がない。
- 消費電力が大きい(たとえば、タインチ工場の消費容量は670KW)ため、コストが大きくなる。
この方法がベトナムでさらに広く発展する可能性はさほど高くないと言える。 現在、世界中の多くの国では、ごみから作られた堆肥の使用を禁止または制限することが推奨されている。堆肥には、土壌を覆う膜を形成するセルロース繊維が多く含まれているため、土壌の呼吸能力が低下する。 特にベトナムのゴミにはナイロン繊維も多く含まれているので、さらに有害である。
焼却
焼却も、ベトナムで一般的な廃棄物処理方法だ。固形廃棄物(分別後)を一次燃焼室(温度400℃)と二次燃焼室の高温(950℃以上)の焼却炉に入れ、可燃性ガスと灰を生成する。
今日のベトナムでは、ほとんどの焼却炉が技術規制の要件を満たしていない。 例えばオペレーターが適切な技術資格を持っていて、処理プロセスから発生する排出物を綿密に監視する必要があるが、このような要件が守られていない。 381基の固形廃棄物焼却炉のうち、容量が300 kg / hを超えるのは294基(約77%)であり、残りは固形廃棄物焼却炉に関する国家技術規則の要件を満たしていない。小型の焼却炉には、環境保護要件を満たす排気ガス処理システムまたは排気ガス処理システムがない。
焼却も、運用時の課題を多く抱えている。具体的には以下のような課題である。
- 人材育成が進んでおらず、規制に従って機械を操作していない
- 取り扱いが難しいごみを上手く処理できず、炉や機器の品質に悪影響を及ぼす
- メンテナンスコストの負担が大きい
焼却発電
これはエネルギー回収に再利用できるため、最も環境に優しいと考えられている廃棄物処理プロセスだ。焼却炉には、固形廃棄物の燃焼から熱エネルギーを回収するための熱交換器システムとボイラーが装備されている。 生成された蒸気は、タービンを動かして発電する。発電用の廃棄物焼却プラントは、固形廃棄物を燃料とする火力発電所と考えることもできる。
一方で収益性の面では、廃棄物発電所は運用コストの高さ、収益性の低さ、投資コストの高さなどの課題を抱えている。 実際、他の発電によるコストと比較すると、廃棄物による発電コストははるかに高い。 したがって、廃棄物の焼却発電を経済的に実行可能にするためには、政府関連金融機関からの投資支援、融資、税金優遇、電力価格に関する政策とインセンティブが必要である。
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廃棄物処理方法の比較
分析と比較を通して、ベトナムでは世界と比較するとかなり初歩的な廃棄物処理技術を利用していることがわかる。
廃棄物の多くは、埋め立てまたは焼却によって処分される。 一部の大都市では、生活廃棄物を焼却発電で処理する方法が採用されている。 しかしこれまでのところ、ベトナムの環境汚染は進行し続けており、特に効果的であると評価されている技術はない。
ベトナムの廃棄物処理市場に、新たなブレークスルーを生み出すのに十分な資金力と優れた技術を備えた外資企業にとって、ベトナムは非常に有望な市場だと言える。
ベトナムの廃棄物処理工場の例
本章では、ベトナムの主要な廃棄物処理場を紹介する。
Nam Son廃棄物処理場
- 管理機関:ハノイ人民委員会
- 運営企業:URENCO Company
- 場所:ソクソン地区-ハノイ
- 面積:85ヘクタール
- タイプ:埋め立て
- 廃棄物処理能力:5000トン/日
- 特徴:ポシセルを使用。土壌カバーに代わり、消臭する
ナムソン廃棄物処理場は1999年に建設され、面積は157ヘクタールを超えている。現在、ハノイでは1日平均6,500トンの家庭ごみが発生している。そのうち、5,000トンはこのナムソン廃棄物処理場に輸送されて、処理されている。残りの1,300トンはXuan Sonプラント(スアンソン)(ハノイのソンタイ地区)に埋められ、残り200トンは複数の小さな焼却炉で処理される。つまり、ナムソンは毎日ハノイで発生しているごみの約8割ほどを処理している。
Thoi Lai廃棄物焼却工場
- 投資家:Everbright International Co.、Ltd(中国)
- 場所:Can Tho(カントー)
- 総投資額:52.5億円相当
- プラントの種類:廃棄物焼却発電所
- 廃棄物処理能力:400トン/日
- 発電容量:7.5 MW
- 技術:中国の廃棄物焼却発電技術
Thoi Lai(トイライ)廃棄物焼却工場は、Can Tho市のThoi Lai 地区で2018年12月に稼働を開始した。埋め立てられた生活廃棄物を含め、40万トン以上を処理しており、1億1,300万kWh以上の電力を供給した実績がある。
現在、カントー市で発生する毎日の廃棄物の約70%はThoi Lai工場の高度な焼却炉で処理され、発電に用いられている。Can Tho 市は、廃棄物による発電の導入においてベトナム国内でトップの地域だと評価されている。
Dong Nai コンポスト処理工場
- 投資家:ソナデジ環境株式会社
- 場所:Vinh Cuu地区-Dong Nai
- 総投資額:1.4億円
- 面積:7.1ヘクタール
- タイプ:コンポスト
- 廃棄物処理能力:450トン/日
- 運用プロセス:廃棄物の分別、好気性堆肥化、熟成、腐植土の生成。
ドンナイ・コンポスト処理工場は450トン/日の容量で堆肥化するための廃棄物処理プラントで、2021年7月に稼働を開始した。この廃棄物処理プラントの面積は7.1ヘクタールで、その内の4.2ヘクタールが処理施設である。プラントの総投資額は2,200億ドン前後だ。
ドンナイ・コンポスト処理工場は、ベルギーから輸入された廃棄物処理ラインと技術を使用した現代的な工場である。工場の廃棄物処理プロセスには、廃棄物の分別、好気性堆肥化、熟成、精製腐植土の成形という4つの主要な段階がある。受け取った有機性廃棄物の約80%は堆肥として扱われ、燃焼後の不活性廃棄物の約15%は埋められる。また、ビニール袋の約5%が回収、リサイクル、再利用されている。
ベトナムの廃棄物処理市場における日本の投資家にとっての機会
環境と生活環境の保護は、持続可能な開発に向けた世界中の国々の優先事項だ。 アジアにおいて、日本はこの分野の主要国である。ベトナムの廃棄物処理市場は以下の理由で、日本の投資家にとって有望な市場である。
- 高度な廃棄物処理技術の需要が高い
現在、ベトナムの一般廃棄物量は約5万トン/日であり、都市部では約35,000トン/日であり、そのうち80%以上が主に埋め立て技術で処理されている。 そのため、処理技術が要件を満たしていない一方で、毎日大量の固形廃棄物が発生している。 そのため、ベトナムでは、CFB技術(流動層燃焼技術)、ごみ熱分解技術、メタン発酵システムなど、日本からの高度な廃棄物処理技術がすぐにでも必要とされている。
- ベトナム人は日本の技術を強く信じている
ベトナムではいわゆる「日本ブランド」が浸透している。ベトナム人は「日本製」を商品や技術の水準として考えてきた。 ベトナム人とベトナム人投資家は、様々な分野で日本の技術を高く評価する場合が多い。 効果的であるだけでなく、長期的に安定しているからだ。 したがって、ベトナム企業と政府は、日本の技術が環境分野、特に固形廃棄物処理の分野に持ち込まれることを大いに歓迎している。
- ベトナム政府はごみ処理に強い関心を持っている
2019年、ベトナム政府は環境問題に対して20,442億ドンを割り当て(2018年と比較して5兆3,420億ドンの増加)、環境保護の支援と促進に重要な貢献をし、処理プラントの建設に投資した。首相は、州や都市の人民委員会の委員長に、先進的で最新の技術を用いた廃棄物処理プロジェクトへの投資誘致を促進するためのメカニズムと政策を策定・発行するよう要請した。
廃棄物に関する社会問題
FORMOSA Ha Tinh(フォルモサ ハティン製鉄)の事件
2016年にベトナム中部で起きたフォルモサ社による海洋汚染は、ベトナム史に残る重大な被害を引き起こした環境汚染事件であった。
2016年の4月、異常な量の魚が打ち上げられる現象は、ハティン省の沿岸地域から始まり、クアンチ省、クアンビン省、トゥアティエン・フエ省など各地域の沿岸地域に沿って続き、大規模に広がった。
この事件は深刻な経済的、社会的、環境的被害を引き起こし、その中で水産業が最も影響を受け、次にサービス、観光、飲食業など中部の人々の日常生活に大きな悪影響を与えた。
中部4省の沿岸地域で魚類の大量死を引き起こした環境汚染の原因は、ハティン省にあるFormosa Steel Company(台湾系)の製鉄工場が廃棄物を排出したことであると特定された。Formosaはフェノール、シアン化物などの毒素を含む処理されていない廃水を会社の工場から近隣の海に直接排出していたことが判明した。
2017年、Formosa Companyは責任を負い、公式に国民に謝罪した。この環境事故に対して、ベトナム政府は5億米ドルを補償する義務を負わせた。
VEDAN(ヴェダン食品)の事件
2006年、ドンナイ省の天然資源環境局が発表した調査結果によると、VEDAN社 (Vedan (Vietnam) Enterprise Corp., Ltd.)が基準の約5,600倍(特毒質のシアン化物が76倍超)の毒性を含む廃水をドンナイ省にあるThi Vai川に排出したという事件があった。
結果として、Thi Vai川で水産資源である魚類の大量死を引き起こした。その中の多くは農民が養殖していた水産物であった。
VEDANは外資企業で(台湾)、グルタミン酸ナトリウム(別名MSG)を中心に調味料を生産する会社であり、ドンナイ省に工場を置いていた。Thi Vai川はVEDANの工場の後ろに流れていた。
VEDANの自己申告によると、同社は毎月平均44,800m3の液体廃棄物と未処理の廃水を14年間に渡ってThi Vai川に排出していた。この長年の違法行為をするため、VEDANは複雑な排水管を設定、他の工場の排水システムを経由することなど様々な手法を実施した。
事件はVEDAN商品の不買運動に繋がり、VEDANは事件が発生した後長年に渡ってメディア報道、裁判など様々な危機に陥っていた。VEDANは、水産物や米、果樹の被害を受けたドンナイ省とバリアブンタウ省の農民に2,000億ドン以上を補償することを義務付けられた。
ベトナム政府の方針
ベトナム政府は1994年に環境保護法を初めて導入し、その中に廃棄物処理に関する規制が含まれていた。その後ベトナム政府は、廃棄物の収集と処理の方法、および環境破壊行為に対する罰則について、具体的な規制を徐々に策定していた。 2006年から2010年にかけて、ベトナム政府は世界中のリサイクル動向に合わせて天然資源環境省の政令第12号と2504号を発行した。この際、廃棄物のリサイクルの定義周知や実施の推奨にも注力した。
最近では、ベトナム政府は「2020年最新版環境保護法」を公布した。この法律内で、最も注目すべき点は、2022年1月1日から、ごみ収集業者に分類されていないごみの収集拒否権を認めると決定されたことである。この動きは、ベトナムが世界の環境保護トレンドに近づくものであり、今後ベトナムでの廃棄物処理とリサイクル産業が発展するための前提を作るためだと思われる。
ベトナムの代表的な廃棄物処理企業
URENCO
- 会社名:ハノイ都市環境株式会社
- 設立:1960年
- 本社:ハノイ市
- ホームページ:https://urenco.com.vn/en/
60年以上の歴史を持つURENCO(ウレンコ)は、家庭・工業ごみを収集・輸送および処理する会社である。URENCO社は3,000人以上の正規従業員、218台のあらゆる種類のごみ収集専用車、81台の道路清掃車、21台の高圧水清掃車、およびその他多くのごみ処理設備を運営している。Urencoは、約3,000トンの家庭ごみを輸送する能力を備えている。
URENCOは毎日、ハノイ市内で発生した3,000トンのごみを収集し、6,500トンのごみを埋め立てで処理している。さらに同社は、50トン/日の能力を持つ産業廃棄物熱分解焼却炉など、最新の廃棄物処理技術も所有している。
ベトナム廃棄物処理株式会社(VWS)
- 会社名:ベトナム廃棄物処理株式会社
- 設立:1992年
- 本社:ホーチミン市
- フェイスブックページ:https://www.facebook.com/vwsinc/
ベトナム廃棄物処理株式会社(VWS)は、米国カリフォルニア州に本社を置くカリフォルニア廃棄物処理株式会社(CWS)の100%所有子会社である。VWSはベトナムに廃棄物処理サービスを提供するために設立された。同社が提供するサービスには、環境技術コンサルティング、廃棄物処理施設の設計、建設および運営がある。
VWSの運営している廃棄物施設には、埋立地、リサイクルプラント、堆肥化処理地、中継基地、固形廃棄物収集サービスが含まれる。VWSは、ベトナムのホーチミン市ビンチャイン県にあるDa Phuoc廃棄物処理施設(ベトナム最大の容量)を設計、建設、運営している会社である。このプロジェクトの遂行するために、CWSの資金に加え、米国およびベトナムの銀行から1億米ドルを超える資金を調達した。
Da Phuocの埋立地は、1日あたり5,000トンのごみ処理能力があり、現在、ホーチミンのごみの50%以上を処理している。
VIETSTAR
会社名:VIETSTAR 株式会社
設立:2008年
本社:ホーチミン市
ホームページ:https://vietstarjsc.com/
Vietstar社は主に廃棄物処理、スクラップ収集、環境技術コンサルティングの分野で事業を行っている。Vietstar社のTay Bac廃棄物処理プラントは、Da Phuocプラントに次いでホーチミン市で2番目に大きい廃棄物処理プラントであり、1日あたりの総廃棄物の処理容量は3000トンである。
2021年5月、VietstarはTay Bacプラントのキャパシティーを増強するプロジェクトに沿って、プロジェクトのフェーズ1としてプラント内にある固形廃棄物処理工場を操業開始した。
Vietstar の新しい固形廃棄物処理工場は、Tay Bacプラントの敷地内にあり、総面積は30ヘクタールで、これは、ホーチミン市の今後の廃棄物処理に不可欠な3つの工場の1つと評価されている。工場は1日あたり2,000トンのごみを処理し、1か月あたり7,500トンの有機肥料、8000トンのプラスチックを処理するとされている。
プロジェクトのフェーズ2では、臭気のない閉鎖型廃棄物処理システムを構築する。さらに、リサイクル不能な廃棄物を処理する容量も2,000トン/日ほど増加する。
Vietstarの上記プロジェクトの総投資金額は4億米ドルで、Vietstarが100%を出資しており、ホーチミン市の予算は使用されていない。
まとめ
ベトナムは人口増・経済発展・都市化・工業化という4つの要素によって、排出される廃棄物が大きく増加している。一方で、ベトナムの廃棄物処理は初歩的な方法から脱却出来ておらず、廃棄物の増加スピードに追い付いていないことが大きな社会問題となっている。現在、ベトナムでは1日あたり6万トンの廃棄物が排出されているが、2030年には10万トンになると予測されている。
ベトナムで最もメジャーな廃棄物処理方法は埋め立てである。しかし都市部の埋立地の8割以上が衛生面で課題を抱えており、健全とは言えない。コンポスト、焼却、焼却発電等による処理も行われているが、ベトナムの廃棄物問題を緩和することは出来ておらず、先進国からの技術提供が渇望されている。
ベトナム政府はこのような状況を受け、国際世論を踏まえながら積極的な法改正に取り組んでいる。特に2020年に更新された環境保護法では、分別されていないごみの回収拒否権を回収業者に認めるといった、大きな動きも見られた。
ベトナムの廃棄物処理市場は日本企業にとって非常に有望である。理由は大きく3つある。
1つ目は、高度な廃棄物処理技術が求められていること。2つ目は、ベトナム人は日本の技術を強く信じていこと。3つ目は、ベトナム政府は廃棄物処理問題に積極的であることである。
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