はじめに
ベトナムは今後、日本企業にとって有望な海外進出先になるだろう。
ベトナムは、親日国、安定した成長率、モダントレードの加速、日本との貿易が盛んであることなど、日本にとって今後良い投資先として近年、注目されている。以前であれば、ベトナムは人件費が安く、外国企業が生産コストを削減するのに役立つ生産工場を建設するための投資先と見なされていた。
しかし、現在ベトナムは製造拠点としてだけではなく、魅力的な消費市場として評価されている。本レポートでは、投資先としてのベトナム経済の基礎知識について網羅的に解説する。
ベトナムの基礎情報
ベトナムに関する基礎的情報は以下の通りである。
- 首都 ハノイ
- 人口 約9,851万人(2021年)
- 国土面積 331,690km2
- 言語 ベトナム語
- 宗教 無宗教: 73.6%、 仏教: 14.91%
- 民族 キン族(越人)約86%、他に53の少数民族
- 政治体制 共産党
- 平均年齢 33.3歳(2022年)
- 通貨 ベトナムドン(VND) (1円=約174VND)※2022年12月現在
- GDP成長率 2.6% (2021年)
- 輸出額 333,167 百万米ドル (2021年)
- 主要輸入品目 電子製品・同部品、機械設備・同部品、携帯電話・同部品
- 主要輸出品目 携帯電話・同部品、コンピューター等電子製品・同部品、機械設備
- 失業率 4.3% (2021年、都市部)
- 主要な部門 農林水産 : 12% GDP、製造業・建設業 : 38% GDP、サービス業:41% GDP
地理・国土
ベトナムの国土面積(331,690㎢)は世界65位、東南アジア4位である。また、日本から九州を引いた面積に等しい。人口は世界15位、東南アジア3位の9,8518 万人であり、2040年ごろには日本の人口を超える見込みだ。日本の平均年齢の49歳(2022年)と比べて、ベトナムの平均寿命は33.3歳である。加えて、15歳以上の労働力が5,050万人であるため、若い労働力が豊富といえる。その上、安価な労働力が特徴である。
気候
ハノイがある北部は亜熱帯気候で四季がある。年間の温度差が激しく、11月~4月の朝晩は寒い。
1~2月が最も寒く、7月~8月が最も暑い。また、11月~12月は降水量が少ない。
ホーチミンがある南部は熱帯モンスーン気候で乾季と雨季に分かれている。平均が27度であり、年間を通して高温である。雨季は5月~10月で乾季は11月~4月。雨季の始まる4月~5月が最も暑い。
行政区分・地域
ベトナム政府の地域区分によると、行政的に3つの地域(北部、中部、南部)と6つの社会・経済地域(北部内陸・山間地域、紅河デルタ地域、北中部・中部沿岸地域、中部高原地域、東南地域、メコンデルタ地域)に区分される。さらに、ベトナムの行政区画は5つの直轄都市と58の省に分類できる。
コロナ以前のGDPは年率7%程度の成長を続ける。世界有数の親日国であり、日本と多くの戦略的利益を共有している。
ベトナムの経済
ベトナムは外資系企業の製造拠点として発展してきた。それまでは中国が世界中の企業の製造拠点として発展してきていたが、人件費の向上や米中貿易摩擦など、様々なリスクを負うようになった。そのため、中国以外の国に製造拠点を移す考えが広まった。中国に比べて豊富で安価な労働力を有するベトナムはそのうちの1国として特に人気を集めたのである。
しかし、近年は平均所得の増加に伴う富裕層、中間層の増加により、消費市場としての大きな発展可能性が注目されている。地方の平均賃金はまだ低いため、しばらくは製造拠点と消費市場としての2面性を持つが、ベトナムの経済は、今後は製造拠点としてではなく消費市場としてより成長していくことが見込まれる。
ベトナム経済の主要な経済指標
ベトナム経済に関する主要な経済指標は以下の通りである。
- 名目GDP総額 3,626億ドル
- 実質GDP成長率 2.6%(前年比)
- 一人あたりGDP 3,725ドル
- 実質GDP成長率見込み 6,0%
- 信用格付け(S&P) 2.91% (2022年)
- 消費者物価上昇率 1.8%
- 経常収支(国際収支ベース)-3,812 百万米ドル
- 貿易収支(国際収支ベース) 3,324 百万米ドル
- 金融収支(国際収支ベース)-16,624 百万米ドル
GDP成長率
経済成長率は2010年から平均して5~6%を維持し、過去10年で一人当たりGDPは約2倍となった。2020年の実質GDP成長率は2.91%であり、新型コロナ感染症の影響により10年ぶりの低水準の成長率となったが、近隣諸国がマイナス成長の中、ASEAN内で最も高い成長率を記録した。コロナ禍では唯一ベトナムは東南アジアでプラス成長であった。
ベトナム政府は、2023年のGDP成長率は6.5%に達すると見込んでいる。この目標を達成するため適切な施策を行う方針である。また、国際通貨基金IMFは、2025年におけるベトナムの国内総生産GDPを5711億USD約77兆円とし、インドネシアとタイに次ぐ東南アジア諸国連合ASEANの3番手、GDP成長率は6.9%になると予想している。また、コンサルティング会社PwCの調査レポートによると、ベトナムは2050年にかけて、年平均約5%で成長し、最も高成長を遂げる国となる可能性がある。ベトナム経済は今後も大きく発展する見込みである。
人口動態
ベトナムの人口は9,851万人(2021年時点)である。特に若い年齢の人口が多いことで知られており、人手不足の日本企業がベトナムから人材を呼び寄せるケースも多い。ベトナム政府によると、2025年までに人口1億人を突破する見込みである。
一人当たりGDP
現在の一人当たりGDPは3,725ドルであり、過去10年で一人当たりGDPは約2倍となった。
ベトナム政府が公表する「2021~2025年における経済・社会発展5か年計画」では、2025年の一人当たり年間GDPが4,700~5,000米ドルとなることを目標している(45,000円~48,000円/月)。
インフレ率
2021年、消費者物価指数(CPI)上昇率は1.8%で、2016年以降で最も低い上昇率となった。通年のCPI上昇要因としては、石油・ガスの価格上昇やコメ、建材、教育費の値上げなどがある。一方、新型コロナウイルス感染拡大対策としての一時的な電気料金の減免や観光関連料金の値下げなどがCPI上昇を抑制する要因となった。
平均所得・賃金水準
2022年第2四半期において、労働者の平均月収は全国平均660万ドン(約3万8,280円)で、前年同期比8.2%増となった。ハノイやホーチミンのような大都市とその周りは高く、反対に山岳地域では低くなる。2022年第2四半期においてはホーチミン市が平均月収910万ドンで最も高かった。
平均所得の増加に伴い、消費支出も増加する。ベトナムでは、「家計年収が3万5000米ドル以上(402.5万円)」を「富裕層」、「家計年収が 5000 米ドル3万5000米ドル以下(57.5万円以上〜 402.5万円以下)」が「中間層」であると定義している。中間層・富裕層が拡大を続け、過去10年間で約3倍になった。2030年には全世帯の49%が中間層になる見通しである。
超富裕層人口は2019~2024年の5年間で+64%増加すると予想される。ベトナムの増加率は、インドの+73%、エジプトの+66%に次いで世界3位となっている。中間層・富裕層の拡大により、ベトナム国内の消費市場自体が成長を続けている。
主要なベトナムの産業
ベトナムの産業構造や主要なベトナムの産業について述べる。
産業構造
産業別のGDP構成比は、2000年は農業25%、工業37%、サービス業38%であった。2020年は農業16%、工業37%、サービス業46%となった。2020年にGDP構成比が大きかった農業はサービス業の発展により縮小傾向にある。サービス業の中でも、特に金融業や不動産業の比率が伸びており、主要産業である製造業の割合は、近年は横ばい傾向にある。
このように農業が縮小し、工業化(製造業)やサービス業が伸びていることがわかる。
農林水産業
ベトナムは農業大国である。農林水産業のGDPは年々増加しているが、工業部門の成長によりGDP に占める農林水産業の割合は減少している。特に生産量の多い農産物はコメ、コーヒー、ゴム、カシューナッツ、コショウや果物類などである。ベトナム農業の主な課題としては付加価値が低い、生産性が低い、輸送時のロスが多いという3点が挙げられる。今後の展望として、スマート農業の普及、コールドチェーンの普及、ブランディングの強化が挙げられる。
林業について、ベトナムは木製家具の輸出量において東南アジアで第1位、アジアで第2位、世界では第5位の国である。木製家具の製造業はベトナム経済における重要な位置を占めている。 ベトナムの木製家具の主な輸出先は米国、EU、日本、中国等である。
水産業については、魚類の他エビ類の生産も盛んである。特に近年は養殖の技術発展が目覚ましく、エビおよび白身魚(パンガシウス)の養殖が非常に多い。日本のスーパーでもベトナム産のブラックタイガーや、パンガシウスの切り身等が陳列されているのを見ることができる。
製造業
製造業は外資系企業が成長を続けている。GDP に占める製造業の割合は増加傾向にある。直近の動向としては、2017年に不動産大手ビングループ子会社が完成車製造に参入し、EV生産に集中することとなった。ベトナムの人件費は中国の1/3〜1/2程度であり、海外企業の製造拠点として注目を集めている。製造業の急拡大に伴い、労働者の不足と労働者の賃金上昇が現在より一層深刻化する見通しである。ベトナム国内のサプライヤーが不足しており、今後いかに中国からの輸入に対する依存を減らすかがベトナム製造業成長において大事である。
サービス業
ベトナムの小売市場は毎年発達し続けており、2021年の市場規模は1,790米億ドルであった。中所得者の増大に伴い、高成長を継続しており、外資企業が次々に参入している。
従来は公設市場や個人商店といったトラディショナルトレードが主流であったが、近年では都市部を中心にスーパー、コンビニ、ECといったモダントレードが発達している。また、経済発展に伴い、ベトナムではコールドチェーン(冷蔵冷凍輸送)の需要が急拡大している。現状では電気代の工場優遇価格が適用されておらず、投資コストの参入障壁から需要が供給を大幅に上回っている状況である。
ベトナムでは人口と中流階級の世帯数が着実に増加しているため、小売市場には大きなポテンシャルがあると考えられる。特に都市部に住むベトナム人は現在、品質・製品の産地・快適なショッピング体験を優先する傾向があり、従来の伝統的な市場や個人商店(交通の利便性が高く、価格が安いが、品質と食品の安全性と衛生が確保できない)よりも現代的なスーパーマーケットで食品を購入している。 これはベトナム人の消費行動の大きな変化である。
しかし、ベトナム小売業においてコールドチェーンが未整備であることが大きな課題である。この原因として、国内で求められる品質水準が高くないことと、コールドチェーンを利用するコストが高いことが挙げられる。一方で、コールドチェーンを推進しようとする大企業もあり、今後需要が高まる見通しである。実際に、海外に輸出を行うベトナム企業の半分以上はコールドチェーンを利用している。特に食品関連企業や小売企業がベトナムでビジネスを展開するにあたっては、このコールドチェーンの発展が鍵となる。
輸出入動向
2010年以降、ベトナムでは輸出額、輸入額ともに増加傾向で推移してきた。近年、徐々に農産物(コーヒー、米等の農産物)、鉱物などの原材料としての輸出から、農産物を加工した商品、機械、設備、電話及び同部品などの加工品・製品の輸出にシフトしている。
輸出
中国や韓国、日本から材料や電子部品などを輸入し、ベトナムで加工・組立を行い、輸出する構造となっている。
主な輸出品目
主な輸出品目として、最も多いのは携帯電話・同部品、次点でコンピューター等電子製品・同部品、そして機械設備が続く。ベトナムはこのような機械・電子製品が非常に多いが、他にも衣料品や農林水産物などもベトナムの主要輸出品目である。人件費が安いことを理由に外資系企業のベトナム進出が相次ぎ、アパレルや靴などの労働集約産業が発達している。2000年代後半以降はサムスンやLGをはじめとする韓国企業の進出により、エレクトロニクス製品の輸出が拡大した。
輸出相手国
ベトナム税関総局によれば、2022年1~9月の輸出を主要国・地域別にみると、米国が851億6,821万ドル(前年同期比23.7%増)で1位、次いで中国が412億2,264万ドル(6.2%増)、韓国が186億8,198万ドル(16.8%増)だった。6位のオランダは40.1%増の78億1,728万ドルで、7位のドイツは28.7%増の67億6,070万ドルになるなど、欧州向けの輸出、特に機械設備・同部品の輸出が大きく増加した。
輸出額・輸出量
ベトナム税関総局によると、2022年1~9月の輸出は2,823億4,652万ドル(前年同期比17.2%増)となった。
輸入
主に部品類を輸入していることから分かるように、輸入した部品を組み立てて製品として輸出する構造をもつ。
主な輸入品目
主な輸入品目としては、コンピューター等電子製品・同部品が最も多く、次点で機械設備・同部品、3番目には携帯電話・同部品が続く。2009年に韓国のサムスングループがベトナムに進出したことにより、電話関連製品の輸入が増加した。
輸入相手国
ベトナム税関総局によれば、2022年1~9月の輸入を主要国・地域別にみると、中国が911億5,828万ドル(前年同期比12.1%増)で1位となり、韓国が481億1,812万ドル(18.8%増)、台湾が179億2,211万ドル(17.2%増)と続いた。
輸入額・輸入量
ベトナム税関総局によると、2022年1~9月の輸入は2,755億8,316万ドル(12.8%増)となった。
外国直接投資(FDI)の動向
ベトナムへの外国直接投資は、ベトナムが2007年に世界貿易機構(WTO)に加盟して以来、大きく増加している。特にベトナムが 自由貿易協定(FTA)に加盟した後, ベトナムの経済も活況を呈している。 従来的な社会主義に基づく環境から開かれて自由な投資環境への変遷、国際的経済枠組みへの参加、国内体制の改革を経て、ベトナムは外国人投資家にとって魅力的な投資策となった。 ベトナムへの外国直接投資の流入は大幅に増加している。 日本はベトナムに積極的に投資を行っている国の1つである。2021年12月までの累積登録投資額は韓国に次いで第2位の規模である。
国際関係
ベトナムと主要国との国際関係について述べる。
中国
中国はベトナムへの輸出額・輸入額ともに上位を占め、ベトナムにとって非常に重要な貿易相手国である。しかし、近年中国とアメリカの関係は悪化している。ベトナムは貿易額で中国とアメリカの占める割合が高く、対立を深める両国と切り離せない経済関係を持つ。そのため、両者の今後の関係がベトナムとの関係にも大きく関係する。
アメリカ
ベトナムと米国は、以前は戦争の敵国同士であったが、1995年に国交が回復して移行、2国間の経済的・文化的結びつきは非常に強くなっている。ベトナムと米国間の双方向の貿易売上高は1995年の451MilUSDから2020年の90.8Bil USDへと増加した。またアメリカはベトナムの直接投資を行う金額で11番目の国であり、2019年にベトナムに2.6Bil USDを投資した。2021年10月までを累計すると、アメリカはベトナムに9.72Bil USDの直接投資を行っており、1,134案件を展開している。
日本
1973年9月21日に日本とベトナムは外交関係を樹立した。その後、「アジアの平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」の下、政治や経済、文化等の幅広い分野にて、両国の関係は今もなお発展を続けている。
現在、日本はベトナムに対して、中国、米国、韓国に次ぐ第4位の貿易相手国である。2021年のベトナム・日本の貿易額が約427億ドルと、初めて400億ドル台に到達した。2021年、ベトナムから日本向けの輸出総額は、約201億3,000万ドルを達し、前年に比べて4.4%増加した。一方、ベトナムの日本からの輸入総額は、約226億5,000万ドルとなり、前年に比べて11.3%増加した。
ベトナムの投資計画省によれば、日本は対ベトナムFDI の第2の投資国である。2021年11月時点で、日本はベトナムにおいて4.792案件を展開しており、総投資額が64.2Bil USDに達している。これはベトナム全体のFDI投資額の16%を占めている。また、日本はベトナムに対する最大の開発援助(ODA)国であり、累計金額は23.76Bil USDに達している。これらの資金はベトナムの社会経済インフラの整備、および貧困の削減に大きく貢献している。
ASEAN
日本と、ベトナムが加盟しているASEAN諸国は重要なビジネス・パートナーである。日本とASEAN諸国との貿易額は24兆円以上(2021年)にものぼり、貿易総額の約15%を占めている。一方、ASEAN諸国にとっても日本は中国、米国、EUに次ぐ貿易相手国で、貿易総額の約7%(2021年)を占めている。日本とASEAN諸国は、二国間の経済連携協定(EPA)や日本ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定を締結し、貿易・投資の更なる活性化に向けた制度上の整備が進められている。
生産拠点としてのベトナム
かつてベトナムは人件費が安く、外国企業が生産コストを削減するのに役立つ生産工場を建設するための投資先と見なされていた。 しかし現在は多くの外国人投資家は、ベトナム魅力的な消費市場として評価している。 ベトナムの消費財産業は、安定した成長を遂げている市場とされている。
消費市場の拡大
先にも述べたように、生産拠点として発展してきたベトナムは近年消費市場としても注目を集め始めている。経済発展に伴い、ベトナムの人々の所得が増加し、いわゆる富裕層と中間層が拡大した。その結果、以前よりも高価な商品でも多く売れるようになり、再び外資系企業から注目が集まっている。
急速な都市化の過程に伴い、中間層の人口が増加するにつれて、より多くの外食をする傾向がある。伝統的な市場からスーパーマーケット、市場、コンビニエンスストアなどの近代的なチャネルでの買い物に切り替わり、加工製品の消費を増やす傾向が予測される。
トラディショナルトレードからモダントレードの拡大
商品の購入のチャネルとしてモダントレードとトラディショナルトレードがある。前者は「近代的小売形態」を指し、スーパーマーケット、コンビニ、デパートに代表される。後者は「伝統的小売形態」を指し、パパママショップ(家族経営を中心とした小規模事業者)があげられる。
ベトナムでは伝統的小売り業態(トラディショナルトレード)が大きな割合を占めているが、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ショッピングセンターといった近代小売り業態(モダントレード)の普及が着実に進んでいる。近年では、トラディショナルトレードの成長率は年率数%程度に留まっているが、モダントレードの成長率は10%以上に到達している。
事実、ベトナムでは、スーパーマーケット、ショッピングセンターの店舗数は増加を続けている。ベトナム統計総局によれば、スーパーマーケットの店舗数は2010年時点では600店舗に留まっていたが、2019年には1000店舗以上までに増えた。関連して、ショッピングセンターも2010年時点の100店舗程度から、2019年には240店舗まで店舗数が増大している。
また、eコマース市場も発展が見込まれる。2019年時点のeコマース市場の売上高は44億米ドルであるが、2024年には85億ドルまで市場が成長することが見込まれている。通信販売の利用者数も2019年の3,960万人から5年後の2024年には6,690万人まで拡大する予測だ。ベトナムのeコマース市場の発展には、決済システムや物流インフラの点で課題は残っているものの、普及が進んでいくトレンドに変わりはないだろう。
日本企業の進出動向
ベトナムでは以前から日本企業の進出が目立つ。ベトナムにはハノイ、ダナン、ホーチミンの3カ所に日本の商工会議所が存在する。
2022年1月時点で、ハノイの商工会議所には789社、ホーチミンには1060社、ダナン(2019年時点)には130社登録されており、合計で1939社に達する。ASEANの他の国と比較しても、ベトナムへの日系企業進出数はトップクラスに多い。
日系企業のベトナム進出のパイオニアとなったのは1990年代に進出していたTOYOTA、YAMAHA、HONDAといった自動車・バイクメーカーである。特にベトナムはバイクが多いため、YAMAHA、HONDAは町中でよく目にする名前である。
その後に続いたのは大手の家電、製薬、食品メーカーである。シャープ、パナソニック、ソニー、東芝などの電機メーカーはベトナムでも広く知られている。
製薬に関しては、殺虫剤のアース製薬、目薬で知られるロート製薬、湿布の「サロンパス」で知られる久光製薬などが代表的な例である。特に久光製薬のサロンパスは、湿布自体の代名詞と言えるほど浸透している。
食品に関しては、即席ラーメンを主力とするエースコックが、ベトナム市場のパイオニアである。90年代前半に進出したエースコックは徹底的なローカライズを行い、進出から数年後に発売した「ハオハオ」ラーメンはベトナム国内で300億食を突破し、ベトナムで最も販売数の多い即席めんとなった。
このように、早くからベトナムに進出している日系企業の多くは、製造業・メーカーである。
また、ベトナム消費者の拡大に伴い、日経小売企業のベトナム市場参入が相次いでいる。
既にベトナムに進出している主要な日系小売大手企業としてはファミリーマート(2009年、ホーチミン市に初店舗を出店し、現時点までに数百店舗を展開)、ユニクロ(2017年、ベトナム1号店をホーチミン市に開店。2020年までに100店舗の出店を計画)、良品計画(2020年、ホーチミン市にベトナムでは初のポップアップストアをオープン)、マツモトキヨシ(2020年10月、ホーチミン市1区のビンコムセンターに、1号店をオープン)などがある。
新型コロナの影響
新型コロナウイルスの感染拡大前の数年間は、ベトナムは年7~8%のGDP成長率を維持してきていたが、新型コロナウイルスの影響により、2021年のGDP成長率は2.58%であった。これは直近30年間の中で最も低い成長率となる。
感染拡大政策の一貫として大規模な外出制限、移動制限が行われたため、工場等の製造拠点の稼働ができなくなり、また消費も落ち込むこととなった。また輸出入もストップしたため、製造のために必要な原料等の調達もストップしてしまったこと等が原因であった。新型コロナの流行が始まって以来、ベトナムは大きく感染拡大の4つの波があった。 特に第4波は最も深刻で、2022年3月頃には一日の感染者数が30万人を超える事態となっていた。
新型コロナウイルスのワクチン接種がまだ始まっていない初期の段階では、ベトナム政府は厳しいコロナ感染防止策を徹底していた。
しかし、ワクチン接種率の向上とともに、ベトナム政府も徐々にコロナに関する規制緩和を始め、2022年現在では、ほぼコロナ以前の経済活動を取り戻している。また外国人の入国制限もほぼ撤廃されている。
これまで新型コロナワクチンを3回接種した人口は7,960万人で、これは人口の81.7%に当たる。日本での3回目接種の割合が61.7%を踏まえると、非常に高い割合の人口がワクチン接種を行っていることが分かる。
2023年のベトナム経済の見通し
2022年11月、ベトナム国会は2023年の主要な社会・経済目標の15項目を定めた「2023年社会・経済発展計画」の決議を採択した。その中で決定された主要項目の社会・経済発展目標は以下のとおりである。かっこ内は2022年の目標値である。
- GDP成長率 6.5%(約6~6.5%)
- 1人当たりGDP 約4,400ドル(約3,900ドル)
- GDPに占める製造業の割合は約25.4~25.8%(約25.5~25.8%)
- CPI上昇率は約4.5%(約4%)
- 労働生産性の上昇率は約5~6%(約5.5%)
- 農業就業者の割合は26.2%(27.5%)
- 訓練を受けた労働者の割合は68%(67%)。そのうち、訓練を受けた資格・修了証を有する労働者は約27.5%(約27~27.5%)
- 都市部の失業率は4%未満(4%未満)
ベトナム政府は、2023年のGDP成長率は6.5%に達すると見込んでいる。この目標を達成するために、適切な施策を行う方針であり、ベトナム経済は2023年も大きく発展する見込みである。
ベトナム経済の魅力点
日系企業を含めた多くのグローバル企業が生産拠点を中国から第3国へ移転する動きを強めていることは以前の記事でも繰り返し述べてきた。その中でベトナムに生産拠点を移す企業が多い。ベトナム経済の魅力について記載する。
安定した経済成長で消費市場が拡大している
日本は既に日本国内の市場が縮小していることが挙げられる。2021年時点での日本の平均年齢は48.4歳であり、今後も上がり続けていくことが予想されている。内需の減少は、避けられない事態である。一方、ベトナムは平均年齢が33歳と若く、消費市場の拡大が見込まれる。また、既に進出している日本企業の活躍によって、「日本ブランド」が確立されているという点もある。
親日国である
ベトナムは親日国である。ベトナムが親日である要因は、政治的要因や歴史的背景、現代の政治や若者文化が大きく影響している。
日本貿易振興機構JETROの調査によると、2020年、ベトナムの日本企業進出数は1985社である。ハノイ・ベトナム北部には794社、ホーチミンには1044社、ダナンには147社が進出しており、 今後在ベトナム日系企業の多くが事業拡大の方向性を示している。
イオン、ファミリーマート、パナソニック、ホンダ、トヨタ、味の素、エースコック、ロート生薬、ユニクロなど、ベトナムには多くの日本企業が参入している。飲食店も多く参入しており、すき家やはなまるうどん、ちよだ鮨などの有名店から日本料理店、居酒屋なども多くある。さらに、ハノイ市内にはキンマー通り、ホーチミンにはレタントンという日本食店が多く並ぶいわゆる日本人通りと呼ばれる通りもある。そのため、現地のベトナム人も日本食、日本語に触れる機会も多く日本への親しみが生まれている。ベトナムに親日が多い理由は上記であげた以外にも多くあり、様々な所で日本と似ている部分もある。
また、2023年で日越外交樹立50周年となる。このような親日的な国民性は、日本企業にとってベトナム市場での発展に優位である。
さいごに
このレポートでは、投資先としてのベトナム経済の基礎知識について網羅的に紹介した。
ベトナムの経済は外資企業の製造拠点として発展してきたが、経済発展に伴い国民所得が増加し、富裕層と中間層が拡大したことにより、近年では消費市場としてのポテンシャルが注目されている。
ベトナムのGDPは毎年プラス成長を続け、20年で約9倍になった。今後も大きく成長することが見込まれる。加えて、大の親日国、安定した成長率、モダントレードの加速、日本との貿易が盛んであることなど、ベトナムは日本にとって良い投資先としての特徴をもつ。このように、ベトナム進出は日本企業にとって大いに魅力的である。
ベトナム進出を検討されている日本企業の皆様には、是非ベトナム進出コンサルティング会社のONE-VALUEまでご連絡頂ければ幸いである。
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