はじめに:2021年9月にPDP8ドラフトが再公表
2021年9月上旬、ベトナム商工省は「第8次ベトナム国家電力マスタープラン(PDP8)」のドラフト版を公表した。2021年2月には以前のベトナム政権がPDP8ドラフトを公表していた訳であるが、政権が変わったため、「第8次国家電力マスタープラン(PDP8)」は再度見直しが行われた。
新たな9月版のPDPドラフトでは、注目されていた石炭火力の電源構成比が高められる一方で、再生可能エネルギーの占める割合は引き下げられるという結果になった。
PDP8ドラフトの内容をより具体的に見ると、9月版のPDP8ドラフトでは、2030年までの運転開始済み電源容量は130,371〜143,389MWとなっており、各電源の比率は石炭火力:28.3〜31.2%、ガス火力:21.1〜22.3%、水力・揚水発電:19.5〜17.73%、再エネ:24.3〜25.7%、輸入:3〜4%となっている。2045年までの運転開始済み電源容量は261,951〜329,610MWで、各電源の比率は石炭火力:15.4〜19.4%、ガス火力:20.6〜21.2%、水力・揚水発電:9.1〜11.1%、再エネ:40.1〜41.7%、輸入:3〜4%となった。
ベトナム商工省は、9月版のPDP8公表に合わせて、PDP8承認待ちとなっていた石炭火力発電、LNG火力発電のプロジェクトの見直しを実施した。この結果、実態のない(実現可能性がない)発電プロジェクトは大幅に削除された。
PDP8は9月5日に公表されたドラフトは最終的な首相の承認を得ていないため、最終版ではないものの、2021年末にかけて最終的にベトナム政府が公表するものと考えられる。
ベトナムの電力・再生可能エネルギー市場はPDP8の公表を前にして、企業の投資活動が一段落していたが、今後のベトナム政府の方針も明らかになった現在、再び、民間企業の動きが活発になるだろう。
ベトナムのバイオマス燃料の動向
ベトナムのバイオマス燃料をめぐる動きは日本企業、現地企業を含め、2020年から水面下で活発化してきたが、今後も2025年にかけて日本企業の動きがより活発になると筆者は分析している。日本国内でもバイオマス発電への投資が行われ、バイオマス燃料の需要が高まっているものの、肝心の日本国内での供給量には限りがあり、ベトナム産木質ペレットの輸入がここ数年で急増していることは周知の通りだ。
ベトナム国内でのバイオマス発電への投資を模索する企業も増えており、輸出向けにしろ、ベトナム国内での燃料資料にしろ、限りある資源であるベトナム国内のバイオマス燃料を研究する日本企業も増えているのではないか。
ベトナムのバイオマス燃料とは、結局何が最も有望であるのか。ベトナムで最も有望なバイオマス燃料を結論づけるための視点をこの記事では提供してきたい。結論から言えば、ベトナムで最も有望なバイオマス燃料は林業系バイオマス燃料と農業系バイオマス燃料である。この2つは長期的な安定調達から高く評価できる。価格が安く、量が沢山ある。これがベトナムのバイオマス燃料の実現性を評価する上での核心的なポイントである。
林業系バイオマス燃料
ベトナムは世界的に見ても林業が盛んな国であることに加え、木材の輸入が多い国である。そのため、国内ではベトナムの人工林で栽培された木材と輸入木材が流通している。林業系バイオマス燃料としては主に森林木材(薪等)、間伐材・林地残材、工場等残材、木材ペレット・チップが挙げられる。ベトナム中部地方から北部地方にかけて人工林が集中しているエリアであり、木質ペレット製造工場もこの周辺地域に集中する傾向がある。
バイオマス燃料の長期的な安定調達を評価する上では、資源発生量の多い発生地を特定し、どのような流通構造になっているか、主要な燃料サプライヤー誰か、価格の変動要因は何かを深く理解することが重要であろう。
バイオマス燃料の安定調達を見る上でのチェックポイント
- バイオマス燃料の国内全体量の推移、種類別内訳(農業系、林業系、その他)
- バイオマス燃料による発生量、使用可能料の推移(2045年まで)
- バイオマス燃料の市場価格(地域別、将来予測)
- バイオマス燃料の省・地域別分布
- バイオマス燃料の燃焼価値・性状
- バイオマス燃料の輸送費
- 森林資源(省・地域別栽培面積、樹種別内訳、資源量予測)
- 流通構造
- 現在の使用状況
農業系バイオマス燃料
ベトナムは世界的に生産量、輸出量がトップクラスの農産物が多数存在する。例えば、コメの輸出量はインドやタイと肩を並べ、毎年トップ3に入っており、世界シェアの15%程度を占めている。カシューナッツの輸出量は世界1位であり、カシューナッツ生産量は2020年時点、17年連続で首位を維持している。また、コーヒー輸出量は近年、ブラジルに次ぐ世界2位であり、ロブスタ種コーヒーの生産量は世界1位である。このほか、天然ゴム輸出量世界第3位、ライチ輸出量世界2位等、世界市場を支えるベトナム産農産物が数多く存在する。こうした背景を理解すれば、自ずと有望なバイオマス燃料の選択肢は結論が出てくるだろう。
ポイントとしては、ベトナムは農産物の輸入国でもあるという点だ。これは木材でも同様に、安価な人件費を背景として、国外から原料を輸入調達し、国内で加工した後に海外向けに輸出するというベトナムのバイオマス燃料の流通構造を意味している。その流通過程から残渣としてバイオマス燃料が発生している。
結論:最も有望なバイオマス燃料
ベトナムで長期的な安定調達に叶うバイオマス燃料とそのチェックポイントを解説してきた。2025年にかけて多くのバイオマス発電所が今後、商業運転を開始していくだろう。
この他、ソルガムを中心とする草本系バイオマス燃料の栽培に関する動きも出ている。ベトナムの大手乳製品メーカーも牧草として栽培する動き以前にもあったが、今後のベトナムで調達可能なバイオマス燃料の1つとして考えることができる。
ベトナムで最も有望なバイオマス燃料である林業系バイオマスと農業系バイオマス燃料について事業投資を検討の方はぜひご連絡いただければ幸いである
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