はじめに
ベトナム経済が順調に発展する中で様々な業界がベトナムビジネスに注目しているが、その中でも金融機関、特に地方銀行のベトナム進出が相次いでいる。今回は、銀行がどのような形でベトナムに進出が可能なのかについて、解説していきたい。
外資銀行がベトナムに進出できる形態は大きく3つ
ベトナムにおける銀行業は投資法により「条件付き投資分野」に定められている。この法律に基づいて、日本を含めた外資の銀行がベトナムに進出する形態は大きく4つの形が存在する。
1:外資100%での現地法人(外資銀行)の設立
まずは外資100%での外資銀行の設立である。すでに進出している例としてはイギリスのHSBC(香港上海銀行)グループや、アメリカのCitibank(シティバンク)等がある。しかし100%外資で銀行を設立するには、3兆VND(1億3000万USD)以上の法定資本金が必要であること、さらに役員や定款に関する細かな規定をクリアすることがあり、非常のハードルが高いと言える。日本の金融機関で、ベトナムで外資100%の外資銀行を設立した事例はない。
2.ベトナムの国内銀行への資本参加
すでにベトナムにある銀行に対して、出資をする間接投資の形態である。日本の銀行では、みずほ銀行のVietcombankへの出資、三菱東京UFJ銀行のVietinbankへの出資、三井住友銀行のEximbankへの出資およびあおぞら銀行のOCBBankへの出資等の事例がある。出資を行うことにより専門家の派遣、両方の金融商品のクロス販売等が行えるようになった他、進出している日本企業へのより綿密な金融サービス(リテール、貿易支援、現金管理等)を提供できるようになっている。
3.外資銀行の支店の設立
国外の銀行の支店を設立する形態である。現地法人と支店とでは、現地法人は法人格を有し、自身で事業を実施できるのに対して、支店は法人格がなく、本社からの委任がなければ事業を実施できないという違いがある。日本の銀行の支店としては、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行等がある。
4.駐在員事務所の設置
本社より社員を派遣し、駐在員事務所を設置する形態である。駐在員事務所では直接的に利益を生み出す行為は禁止されているため、駐在員事務所が直接顧客にサービスを提供することはできない。よくある形態は、ベトナムの銀行の事務所内に「ジャパンデスク」を設置し、顧客からの相談への対応、無料コンサルティングを実施するケースである。この形態を選択するのは、各地域で顧客を抱えている地方銀行が多い。
5.外資銀行の子会社として、コンサルティング企業を設立
こちらも外資100%で法人を設立する形態であるが、銀行業ではなくコンサルティングサービスを行う企業を設立する形態である。こちらは近年注目されている新しい進出形態であり、大垣共立銀行がハノイ市に設立した「OKB Consulting Vietnam Co., Ltd.」や、東京きらぼしフィナンシャルグループが設立した「KIRABOSHI BUSINESS CONSULTING VIETNAM CO., LTD.」等の例がある。これらの現地法人は駐在員事務所とは異なり、利益を生み出す行為が可能であるため、有料のコンサルティングサービスを提供することも可能だ。
今こそ求められる地方銀行による企業への支援
日本―ベトナム間のビジネスが注目され始めた当初は、ベトナムに進出する日系企業は大企業がメインであった。しかし現在は47都道府県のスタートアップや中小企業を始め、様々な企業がベトナム進出を行っている。その中で、各企業はビジネスに関する相談や支援を受けられる信頼できるパートナーを求めている。そうした中で、ベトナム現地における地方銀行による支援のニーズが非常に高まっている。
ほとんどの企業は、その企業の本社がある地域の地方銀行をメインバンクとしており、日頃から融資以外の様々な相談を銀行に行っている。もしベトナム現地でもそのような支援が受けられるのであれば、企業にとってこれほど心強いことはないだろう。
一方、銀行にとって最もハードルが高い進出形態は、駐在員事務所の解説またはコンサルティング企業の設立である。駐在員事務所は設立手続きも簡単ではあるものの、直接有料サービスを提供することができない等の制限も多い。コンサルティング企業を設立する形であれば、本社と連携した融資サービスも提供しつつ、高品質のコンサルティングサービスも行うことができる。
とはいえ、コンサルティングサービスを提供するにはベトナムビジネスに対する深い知見と実務経験が必要である。そのためにはベトナムビジネスに詳しい人材の確保や、既存のコンサルティング企業との提携が不可欠であろう。
今後も地方銀行によるベトナム進出の戦略展開に注目が集まる。
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