- はじめに
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業①:Shopee
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業②:Society Pass(SoPa)
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業③:Telio Vietnam
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業④:SKY MAVIS
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑤:Tiki
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑥:VNG
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑦: VNペイ
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑧: MOMO
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑨:Elsa Speak
- ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑩:Rever
- 今後の見通し
- まとめ
- ベトナム市場の情報収集を支援します
はじめに
ベトナムの経済発展・生活の現代化の背景には、先進的なIT・ICTを活用するスタートアップ企業の存在がある。
現在のベトナムでは、ほとんど全地域でスマートフォンが利用でき、スマートフォンの普及率は6割を超える。国民所得が増加しているベトナムにおいては、このスマートフォンの普及率は今後さらに早いペースで高まると考えられる。
本レポートでは、ベトナムの主要なITスタートアップ企業を10社紹介する。具体的には会社概要と資金の調達状況である。本レポートを読めば、現在ベトナム市場やベトナム人のニーズ把握、今後のビジネス構想の一助になるだろう。
ベトナムのスタートアップ企業の傾向
記事を読む前に、前提の基礎知識として以下の2点を紹介する。
- スタートアップ企業に対する魅力的なインセンティブ政策と税策があることから、多くのベトナムのITスタートアップ企業はシンガポールに本社を置き経営登録をするが、事業活動のほとんどはベトナムで行われている。加えて、ベトナムではブロックチェーンの仮想通貨が未承認であることも理由の一つである。
- ベトナムでは通話アプリ「ザロ」を手掛けるVNGと、スマートフォン決済大手ベトナム・ペイメント・ソリューション(VNペイ)の2社がユニコーンと位置付けられている。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業①:Shopee
会社概要
- 会社名:Shopee Pte Ltd
- 設立:2015年
- 事業分野:電子商取引プラットフォーム
- 本社:Ba Dinh区Ha Noi市
- HP: https://shopee.vn/
Shopee Vietnamはベトナムの最大手eコマース企業である。 2015年初頭に設立された会社だが、これはTikiやLazadaといった競合他社に比べてかなり遅かった。しかし、Shopeeは急速に成長し、2021年にベトナムで最も多くのトラフィック(アクセス回数)を記録したECサイトになっている。ベトナム以外では、Shopeeは現在シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、台湾などでEC事業を行っている。
Shopeeベトナムの元々のビジネスモデルはC2Cマーケットプレイス(メルカリのような、消費者同士の売買の場を提供)だった。 ただし、現在のShopeeベトナムはB2Cのビジネスモデルを主としている。 売り手の販売手数料および広告料金がShopeeの主な収入源である。
Shopeeの成功は、親会社の強力な財政および技術支援が重要だった。
Shopeeはベトナムで最も人気のEC プラットフォームである。
資金調達の状況
設立直後の2016年、Shopeeは親会社であるSEA HOLDINGSから5000万USDの投資を受けた。SEAは依然として市場を拡大するために、Shopeeにさらに出資する方針を固める。 2021年9月、SEAは、SHOPEEが東南アジアでのシェア拡大と、スペイン、インド、南米の市場に参入するのを支援するために、株式と債券の発行を通じて63億ドルを調達する計画を発表した。
SHOPEEの親会社について:「東南アジアで最大の企業」
Shopeeの親会社は東南アジアの最大の会社SEA HOLDINGS(SEA)である。同社の現在の市場価値は1,800億USDと推定されている。SEAの後ろには、中国のIT大手Tencent Group(腾讯)がおり、SEAの39.7%の株式を保有している。一方、SEAの創業者のForrest Li本人と関係のあるBlue Dolphins Ventureは合計35%を保有する。10%は最高技術責任者のGangYeが所有している。
ベトナムのEC市場に参入する前、SEAは2009年に、Vietnam Esports Development JSCを通じてベトナムのゲームおよびeスポーツの分野にも参入した。同社はリーグ・オブ・レジェンド、サッカーゲームのFIFA Onlineなど、多くのベトナムの若者に人気のあるゲームで大きな成功を収めていた。
2019年、SEAはFoodyの82%の株式も取得した。Foodyは、ベトナムでレストランの予約と食品配達サービスを提供する分野で有名なスタートアップであり、この買収の金額は約6400万USDだった。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業②:Society Pass(SoPa)
会社概要
- 会社名:SOPA TECHNOLOGY PTE. LTD.
- 設立:2019年
- 事業分野:データ、電子商取引プラットフォーム
- 本社:12区ホーチミン市
- HP: http://thesocietypass.com/
Society Passは現在シンガポールに本社を置き、東南アジアを代表する「データ活用型のロイヤルティー・プラットフォーム」を開発しており、2019年10月からSoPa Technology Co.Ltd (SoPa)を通じてベトナムで事業登録を行った。
SoPaは、eウォレット・アプリとロイヤルティー・ポイント・アプリを含む、消費者と商品の販売者向けの2つのアプリケーションを市場に投入した。
SoPaはオンラインで注文を管理し、QRコードを介して店舗でキャッシュレス支払いを受け入れることができる無料のプラットフォームを提供している。SoPaはまた、消費者がプラットフォームに登録したレストラン・店舗・販売者でSocietyポイント(共通の価値のポイント)を獲得または交換できるeウォレットアプリを提供している。
SoPaの主力事業はいまだ大幅な赤字になっている。同社は、2021年6月30日の決算、流動資本の減少と累計損益がそれぞれ300万USDと1680万USDであると報告した。同社は2021年6月30日までの6か月間で420万USDの純損失を計上した。
SoPaは他の事業で収益性が見込める。SoPaはベトナムのSaigon-Hanoi Bank(SHB)とも連携して、東南アジアでの中小企業向けの財政支援パッケージを提供している。また、SoPaは高級品専門のECプラットフォームであるLeflairを買収する動きがあった。しかしSoPaが買収する前に、Leflairは2020年に営業を停止した。
資金調達状況
創業以来、SoPaはAからC の3のラウンドで資本調達を実施し、総額2,280万USD以上の調達に成功した。
2021年11月の下旬にSociety Passが米国株式市場(Nasdaq)に約290万株を上場し、約2,330万USDを調達したという。また、ストック・オプションが完全に行使された場合、2700万USDに近い調達が出来る可能性がある。
Society Passの創業者について:ベトナムで2回の大失敗、経験が豊か
SocietyPassの創設者兼社長であるDennis Nguyen氏は、会社の発行済み株式数の72.6%を所有している。Society Passを創業する前は、ベトナムのF&B業界で有望なカフェチェーン、レストランチェーンの運営者を務めた。しかし、当時の彼は成功することが出来なかった。
Dennis Nguyen氏の初のスタートアップであるカフェチェーンThe KAfeは、香港の投資ファンドであるCassia Investmentsから550万USDを調達したが、2016年に全店舗が閉鎖され、The KAfeの運営本部も全面的に営業停止になった。
2019年、ベトナム料理のフォーやブン・ボー・フェーを提供するレストランチェーンで、全国200の店舗を運営していたHuy Nhat社は廃業し、投資家からHuy Nhatの創業者にビジネス詐欺として訴えられる事例があった。Dennis Nguyen氏は、The KAfeの社長、Huy Nhat社の副社長を務めていた経歴がある。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業③:Telio Vietnam
会社概要
- 会社名:Vietnam Telio Company Limited
- 設立:2018年
- 事業分野:電子商取引プラットフォーム、配達サービス
- 本社:Dong Da区Ha Noi市
- HP: https://www.telio.vn/
2018年11月から開業したTelio Vietnam Co., Ltd(Telio)は、ITを駆使してB2BのECプラットフォームを構築し、小売店・実店舗を小売り・卸売業者と一元化されたプラットフォームで接続する会社である。
ベトナムにおける伝統的な小売店とパパママショップでも通常、商品を発注するために数十の卸売業者や流通業者に取引する必要があり、商品が届くまで平均1週間もかかる現状がある。
小売店の運営者は、スマートフォンでTelioアプリを使用して、さまざまなブランドや卸売業者からの商品を簡単に検索、選択、注文できる。Telioは大量の取引によって、低い価格とより高い透明性を保証できるという。
加えて、Telioは24時間以内に商品が店舗に配達されるような、物流システムを構築している。Telioのソリューションにより、店舗の運営者は資金や商品、キャッシュフローの管理が大幅に改善された。
特に、TelioはMobiWork Vietnamと協力して、「MobiWork DMS」アプリを開発し、配達員および営業員が使用する定時報告・時間・業務の管理ソフトウェアを開発し、業務に導入している。これは、ベトナムの他の配達会社との差別化ポイントである。
Telioは現在、ハノイとホーチミン市で3000を超える小売店にサービスを提供している。 特にホーチミン市と連携している小売店に毎月の納品量の3分の1以上を供給し、さらに、月平均7件の注文がTelioのプラットフォームを通じて行われている。
同社は、ハノイとホーチミン市に加えて、他の4つの都市で事業を拡大する予定である。Telioの2019年初頭の従業員数はわずか20人だったが、2021年11月現在、Telioの従業員数は300人近くに上り、急速に成長を続けている。
資金調達の状況
2021年9月まで、TelioはGGV CapitalとTiger Globalといった2つの主要な投資ファンドと他の株主から5100万USDの資金を調達した。2021年11月、ベトナムのインターネットメディア最大手のVNG Corporation (VNG) も、2250万USDをTelioへ出資した。
ただし、Telioに対して、VNGの最大のサポートは資金の支援ではない。
VNGはベトナムの最も利用されているSNSである「Zaloプラットフォーム」でTelioと連携する店舗の人気度を高めるために、注文および輸送追跡の簡易化とデジタル広告を支援する。同時に、「Zalo Pay」を介したキャッシュレス決済も小売店に展開し、店舗の所有者の資金や事業拡大も支援する。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業④:SKY MAVIS
会社概要
- 会社名:Sky Mavis PTE
- 設立:2018年
- 事業分野:ブロックチェーン、ゲーム開発
- 本社:1区Ho Chi Minh市
- HP: https://skymavis.com/
Axie Infinityは、これまでのベトナムで最大のブロックチェーン・プロジェクトである。Axie Infinityは、ホーチミン市に本拠を置くゲームスタジオである「Sky Mavis社」の製品である。現在、Sky Mavisには約40人の従業員がおり、その80%はベトナム人であり、創業メンバー5人のうち3人がベトナム人だった。
Axie Infinityゲームの世界には、一般名「Axies」のペットを中心に展開している。ユーザーは、これらの「Axies」を集めて育成し、互いに戦わせて、ペットのための王国を築く。Axie Infinityと通常のゲームの特別点は、ゲームがブロックチェーン・テクノロジーに基づいて開発されているところである。
ペットのキャラクターを操作して戦ったり、繁殖させたりすることで、ユーザーはゲーム内の仮想通貨(イーサリアム・Ethereum等)を集めて他のユーザーに売ることができる。
Sky Mavisの公開情報によると、2021年の6月以降の数か月で、Axie Infinityゲームからの売上は10億ドルに達した。特に、その取引金額の約17%がSky Mavisの収益になっている。なお、Axie Infinityには毎日平均200万人のアクティブ・ユーザーがおり、ゲーム内のキャラクターの取引金額は22億USDに達した。
資金調達状況
2021年10月末、Sky Mavisはアンドリーセンホロウィッツ(Andreessen Horowitz)投資ファンド(略:A16Z)からシリーズBラウンドの資金調達で1億5000万米USDを調達した。この資金調達ラウンドでは、Sky Mavisの企業価値は30億USDと評価された。A16Zが以前に投資した成功プロジェクトには、Facebook、Twitter、AirBnB、Lyft、Github、Skype、Polychainなど多くの有名企業があった。
2021年5月、アメリカのShark Tankというテレビ番組で、Sky MavisのAxie InfinityプロジェクトがシリーズAラウンドで資金調達に成功した。それにより、米国の著名投資家であるMark Cuban氏(マークキューバン)や他の多くの投資家が、7,500万USDの出資をした。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑤:Tiki
会社概要
- 会社名:TI KI CORPORATION
- 設立:2010年
- 事業分野:電子商取引プラットフォーム、ロジスティクス
- 本社:Thu Duc地区Ho Chi Minh市
- HP: https://tiki.vn/
Tikiはベトナムの次のユニコーンになる可能性が最も高い企業である。
Tikiは2010年に設立され、Tiki.vnでeコマースの分野に注力している。Tiki.vnは現在ベトナムでトップ2のeコマースサイトであり、東南アジアで6位となっている。
現在Tikiは、ベトナムのeコマース業界で、インフラストラクチャおよびロジスティクスシステムに関しては国内最高レベルであり、総面積約6万m2の10のフルフィルメントセンター(商品処理センター)を所有している。
Tikiは、ベトナム初のオールインワン(All-in-One)の完全なエコシステムを運営しているECの企業である。その中で、ロジスティクスサービスを提供するTikiNOW SmartLogisticsがあり、Ticketboxは、映画館・イベントのチケットサービスを提供している。また、小売業者のTiki Trading and Exchangeは、全国の数百万の顧客に約1,000万種の製品を販売している。
Tikiは設立後から毎年多額の損失が出ており、2020年までの累計損益は3兆1000億ドンだった。しかし2019年に、Tikiは1兆7,650億ドンの記録的な損失を報告した後、2020年には38億ドンの損失を記録した。損失額が大幅に減少したことより、「損益分岐点」に大きく近づいたことが分かる。
資金調達状況
Tikiは多くの企業や投資家が参加して、5ラウンドの資金調達を行ってきた。
2012年、日本のCyber Agent Ventures Inc.のCEOである田島氏は、Tikiへの投資を決定し、Tikiの株式の20%を取得した。(取引金額は非公表)
2017年、ベトナムのユニコーンVNG(VNG Group)は1730万USD以上をTikiへ出資、株式の38%を保有し、Tikiの最大の株主の一つになった。
2018年、中国で2番目に大きいeコマース会社であるJD.comは、TikiのシリーズC資金調達ラウンドに参加し、Tikiの最大の株主の一つになった。取引額は約4550万USDだった。
VNG、JD.com、Cyber Agent Venturesに加えて、2020年末時点でのTikiの主要な投資家には、Seedcom(ベトナム)、Sumitomo Corp(日本)、が含まれる。
2021年6月、Tikiはシンガポールの大手投資ファンドNorthstar Groupから1億3000万米USDを調達した。
2021年9月、TikiのシリーズE資金調達ラウンドで世界的な保険大手AIA(香港)は6000万USD、投資ファンドのAppWorks(日本)、CE Fintech Capital(中国)、Nextrans(ベトナム)はそれぞれ750万USD、500万USD、150万USDを出資、Tikiの企業価値が「ユニコーン」に近づいている。
2021年10月に、シンガポールに本社を置く「Tiki Global Pte. Ltd」はベトナムのTiki Corporationの発行済み株式数の90.5%を取得し、Tiki Corporationの最大株主にっている。Tiki Global Pte. Ltdは2021年に設立し、株主の情報が公開されていないため、Tikiの現在の本当の所有者を明確に確認するのは困難である。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑥:VNG
会社概要
- 会社名:VNG CORPORATION
- 設立:2004年
- 事業分野:決済事業、インターネット・クラウド事業、SNS・ゲーム事業等
- 本社:11区Ho Chi Minh市
- HP: www.vng.com.vn
VNG本体または関連子会社で行っている事業が複数あるため、本記事はVNGの主要な事業のみを紹介する。
SNS・ゲーム事業
VNGのゲーム分野は東南アジア市場で着実に進歩し、インド、ロシアなどの新しい市場でも成功を収め始めた。
VNGの運営しているSNSである「Zalo」(日本におけるLINEのようなSNS)は、2020年までのユーザー数がベトナム人口の76.5%に達した。特にベトナムにおける新型コロナウイルスの感染拡大においては、ベトナム政府が国民にする情報配信、感染者の管理・報告をするための有効なチャネルでもある。
AI・電子決済の開発事業
Zaloによって開発されたベトナム初の仮想アシスタントであるKikiは、2022年にはスマートスピーカーに接続され、車で使用できるようになるとされている。ベトナムでAIの応用を強く推進しているというケースの一つである。
また、電子マネーの「Zalo Pay」は、SNSチャットでの送金、お金や現物のプレゼント、オンラインスーパーでの決済などが行える。「Zalo Pay」の利用者数と取引金額は大幅に増加し続けている。
インターネット・クラウド事業
B2BセグメントのVNGクラウドは、コロナ禍の中、ベトナムの中小企業を中心にデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援することで、社会に大きな貢献をしたと評価されている。さらに、VNGによって開発された銀行および金融機関向けの「trueID」という eKYC(オンライン上での本人確認)ソフトウェアは現在、ベトナムおよび外資系大手銀行(Ban Viet銀行、ACB銀行、Hong Leong 銀行など)で使用されている。
スタートアップ企業への投資事業
2020年からVNGは、「IT・ICTを活用しているスタートアップへの投資事業」を実施し始めた。具体的には、VNGは2020年末にITを応用する輸送企業である「Ecotruck」に800億VND以上を投資した。
そして、オンラインプレゼントのプラットフォームを運営するスタートアップ「GOT IT」へ600万USDを出資した。2021年にも新しく、EC先述の「Telio」へ2250万USDを投資した。
資金調達状況・VNGとTencent (中国)の関係
VNGは、戦略的パートナーのために数回の資金調達と株式発行を行ってきており、現在は中国の超大手企業Tencent(テンセント)がVNGの最大の株主である。
外国の株主はVNGの47.38%を所有しているが、50%以上の議決権を持っているとみられる。その中で、テンセントに関連する個人や組織は、最低30%の株式を所有している。レホンミン氏(取締役会長兼社長)は、10%ほどの株式を所有している。
Tenacious Bulldog Holdings Limitedは、イギリス領ヴァージン諸島(タックスヘイブンとして知られる)に本社を置く、VNGの所有率が22.15%の投資家である。
同じくイギリス領ヴァージン諸島で登録している別の株主は、VNGの7.47%を所有するProsperous Prince Enterprises Limitedでもある。これら2人の株主は、両方ともTencent Groupに関係がある。
VNGとTencentの関係は、VNGがオンラインゲーム開発の分野で協力していた2008年からと考えられる。
Tecentに関連する投資家以外としては、シンガポール政府に所属する投資ファンドであるGamvest Pte(GIC)があり、所有率は7.84%である。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑦: VNペイ
会社概要
- 会社名:ベトナム・ペイメント・ソリューション(VNペイ)
- 設立:2007年
- 事業分野:オンライン決済・フィンテック事業
- 本社:Dong Da区Ha Noi市
- HP: https://vnpay.vn/
VNPAYは、顧客が携帯電話で銀行のモバイル・バンキング・アプリ(銀行のアプリ)に組み込まれているQR Pay機能を使用し、VNPAYコードをスキャンすることによって送金または支払を行えるようにする決済サービスを提供している。
現在、ベトナム人にとってVNPAYによる支払いは、利便性の高さから流行の1つとなっており、今後も食事、ショッピング、交通などの日常生活のあらゆる場面に広く応用されると予測される。
VNPAYはベトナムで操業する40以上の銀行、5つの通信会社と連携しているため、銀行アプリをダウンロードするだけで、VNPAYを介して簡単に決済ができる。
現在、ベトナム全国で23,000以上の店・レストラン・スーパーなどでVNPAYのQRコード決済が利用できる。その中にはVietnam Airlines(ベトナム航空)、Vietjet (ベトジェットエア航空)、Mobiphone (モビフォン通信会社)、FPT Retail (FPT Corp.の小売会社)、Redsunレストランチェーン(外食大手)、アパレル小売りチェーンCanifaなどの一連の大手ブランドがVNPAYと連携している。
さらに、VNPAYは様々な割引キャンペーンも実施している。例えば、店舗で現金でなくVNPAYを使用すると割引が受けられる。そのため、VNPAYのユーザーは急速に増加している。(VNPAYの利用者数は公開されていない)
VNPAYの運営企業は非上場企業であるため、業績等の企業情報を入手することは困難である。
資金調達状況
2019年、VNPAYはVNG Groupに次ぐベトナムで2番目の「テクノロジーユニコーン」になった。同年の最初の資金調達ラウンド(シリーズA)では、VNPAYの19.62%の株式をソフトバンク・ビジョン・ファンド(日本)が2億米USDで獲得し、GIC(シンガポール政府投資ファンド)は1億米USDを投資して、13.24%の株式を所有した。この3億米USDの調達の後、VNPAYはベトナムで最大のフィンテック企業になった。
2021年7月、第2ラウンドの資金調達(シリーズB)で、VNPAYは、General Atlantic(米国)、Dragoneer Investment Group(米国)と他の投資家から2億5000万USDを調達した。
特に、米国の2つのファンドについては、ベトナムの企業に投資するのは初めてである。General Atlanticは、中国、インド、インドネシアには投資実績があった。また、Dragoneerは、東南アジアの企業へ出資したことがなかった。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑧: MOMO
会社概要
- 会社名:M_service JSC
- 設立:2007年
- 事業分野:モバイル決済
- 本社:7区Ho Chi Minh市
- HP: https://momo.vn/
Momoはベトナム最大のモバイル決済アプリである。
MoMoは、最初に電話代のチャージ(日本と違って、ベトナムでは事前に電話代をチャージすることが多い)、送金などの機能のみを中心に展開するアプリだった。しかし、現在のMoMoは多くのパートナーとの協力を通じて、決済を中核とする「スーパーアプリ」を開発する方向で、製品とサービスを拡大している。
これまでMoMoは、27の銀行、ほとんどの国際クレジットカード会社と60,000のパートナー、および全国の120,000の店舗・レストランなどと連携している。
完全なエコシステムを所有するMoMoは、支払い、送金、ショッピング、eコマース、交通機関、旅行、エンターテインメント、金融、保険、公共サービス、ボランティアなど、ほぼすべてのユーザーのニーズを満たすことができている。2020年、MoMoを通じての取引金額は140億米USDに達した。
Appotaが発表した「モバイルアプリ2021」レポートによると、MoMoのユーザー数は2,500万人を超え、MoMoは最も広く認識されているeウォレットであり(回答者の94%がMoMoを知っている)、また頻繁に利用するユーザー数が最も多いアプリ(61%)だった。
KPMGとH2Venturesが発表した情報では、2019年、MoMoは世界で最大のフィンテック企業トップ50に入っているベトナム初の代表だった。
MoMoの運営企業は非上場企業であるため、業績等の企業情報を入手することは困難である。
資金調達状況
MoMoを運営する会社であるM_service JSCの2020年の最新情報によると、同社は3回の資金調達を行ったが、これまでの資金調達総額は発表されていない。
Standard Chartered (スタンダードチャータード銀行)、Goldman Sachs (ゴールドマンサックス)、Citi Bank(シティ銀行)などの世界的有名企業を含む7の投資家が会社の66.49%を占めているという。
2021年1月、同社はGoodwater Capital(グッドウォーターキャピタル)およびその他の投資家から第4ラウンド(シリーズD)の資金を総額1億USDで調達した。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑨:Elsa Speak
会社概要
- 会社名:ELSA, Corporation
- 設立:2015年
- 事業分野:言語学習アプリ
- 本社:Tan Binh区Ho Chi Minh市
- HP: https://elsaspeak.com/
2015年に設立されたELSA(English Language Speech Assistant)には、現在、世界中で1,300万人以上のユーザーがいる。 ELSAは、英語の発音を改善することを学習者にサポートし、学習者がスピーキングスキルに自信を持てるようにするためのアプリを提供している。
ELSAは、他の英語および言語学習アプリと比較して、人工知能(AI)の音声認識テクノロジーが優れているという競争優位性を持っている。AIを使用することより、アプリは、何百万ものユーザーから長年にわたって大量の音声データを収集および分析できる。これは、アプリが世界中の学習者からより良い音声を認識し、発音を「標準化」するのに役に立つ。
機械学習に基づいて、Elsa Speakのシステムは各音を自動的に分析し、学習者がどの音を誤って発音したかを正確に把握し、正しい発音を改善するための指示(口を開く方法、舌の使い方など)を提供することができる。
ユーザーはアプリのメンバーシップに登録し、1、3、6か月、1年、または永遠に使用できるパッケージを購入する。ELSAのすべての機能、スキル、コンテンツを利用できる。
ELSAはResearch Snipersによる世界トップ5の人工知能アプリケーション賞と、Analytics India Magazineによるスマートフォンをよりスマートに使用するための必須アプリトップ10を受賞した。
資金調達状況
2019年、ELSAはシリーズAラウンドの資金調達で700万USDを調達した。このラウンドでの最大の投資家は、Googleが所有する、AI開発企業への投資ファンドであるGradient Venturesである。
2020年には、Aラウンドで出資したMonk’s Hill Ventures(シンガポール)と他の投資家が資本を投入し、2020年までにELSAは合計1200万USDが調達した。
2021年2月、ELSAは、企業向けの国際市場を開拓するために、シリーズBラウンドの資金調達で1,500万USDを調達することに成功した。ここでの最大の投資家は、ベトナムのVI GroupおよびSIG Capitalである。Gradient Ventures(Googleのファンド)も、このラウンドでELSAにより多くの資金を投入し続けたことが分かっている。
新しい資金によって、ELSAはラテン・アメリカ市場の拡大を促進し、B2Bプラットフォーム(企業への販売)を構築すると述べた。このプラットフォームは、英語学習アプリケーションが組織や企業にサービスを「卸売り」することにし、それによって団体の従業員または学生に英語学習パッケージを提供する。
また、ELSAはインドと日本市場も開拓する予定がある。これらは、近年英語学習の需要が増加している市場と述べた。
ベトナムの注目スタートアップ・IT企業⑩:Rever
まず前提として、ベトナムは日本とは異なり、不動産を借りる需要と比較して不動産を売買する需要が非常に大きい。そのため、ベトナムの不動産仲介業者は不動産の売買に焦点に置いており、不動産賃貸の取引は仲介会社を通じて行われることが少ない。
会社概要
- 会社名:Rever Technology JSC
- 設立:2016年
- 事業分野:不動産仲介アプリ
- 本社:Thu Duc区Ho Chi Minh市
- HP: https://rever.vn/
2016年に設立されたReverは、ベトナムの不動産仲介の分野におけるITスタートアップである。 ReverはOnline-to-Offlineのモデルで、不動産を売買する顧客にサービスを提供する。現在までに、Reverには50,000を超える物件が登録されている。
また、Reverは創業初期段階の80人の従業員から、3年以内に約400人まで増員しており、2021年11月時点では2,000近くのトランザクション(取引数)に達している。
ReverはITを活躍し、市場データの分析により、物件の価格比較ツールを提供する。また、売買プロセスを容易にし、顧客の信頼を構築している。
住宅に関連するすべてのニーズに対応することを目的とし、Reverは、住宅ローン、VR(仮想現実)による家具の仮配置、スマートホームソリューションなど、さらなる高価値機能とサービスを追加することを発表した。
資金調達状況
2019年9月、REVERはGEC-KIP Technology and Innovation Fund(GEC-KIPファンド)から230万USDの資金を調達した。
2021年、Mekong Capital傘下のMekong Enterprise Fund IV (MEF IV) は、REVERへ1,020万USDの投資をすると発表した。
特に、Mekong Capital (メコンキャピタル)はベトナムのスタートアップおよび成長企業への投資に最も成功しているファンドの一つだと言える。Mekong Capital はベトナム電子製品の小売最大手The Gioi Di Dong (MWG)、ジュエリーの小売最大手 Phu Nhuan Jewelry (PNJ)、ドラッグストアチェーン最大手Pharmacity、IT業界の最大手 FPT Corporation (FPT)等ベトナムの多くの業界の大手企業の設立初期から投資しており、主要株主になった。
したがって、Mekong CapitalのREVERへの大規模な投資は、REVERがこれらのベトナム大手企業と同等のポテンシャルを持ち得るということを意味している。
今後の見通し
政府はスタートアップの育成を奨励し、ベトナムでの新しいスタートアップのアイデアを最大限にサポートする。具体的には、2020年にベトナム政府が「国家起業フェスティバル2020」を開催した。ここでは初めてベトナム首相が司会者をし、あらゆる分野から5名の大臣が参加し、スタートアップからの要望や意見に応えた。この行動は非常に象徴的であり、ベトナム政府のスタートアップ企業に対する期待感と今後のさらなる支援拡充を示唆するものとなった。
ベトナムにおけるフィンテック(金融サービス)、教育、ヘルスケアのスタートアップは最もポテンシャルが高い。「ベトナムフィンテックレポート2020」によると、2015年から2020年の間だけで、ベトナムのフィンテック分野のスタートアップの数は215%増加していた。この中で、スマート決済は依然として最も多くのスタートアップが参加するセグメントであり、全体の31%を占めている。
ベトナムのベンチャーキャピタル・ファンドであるDo Venturesは、2021年のベトナムスタートアップへの総投資金額は10億USDを超え、史上最高水準に達する可能性があると予測している。
Do Venturesは東南アジアの6つの市場で50の投資ファンドへの調査を行い、ベトナムは教育、ヘルスケア、フィンテック分野で、近い将来も主要な投資先であり続けることが判明した。
またベトナムでは、政府・地方自治体がスタートアップの支援に注力しており、全国各地でスタートアップ・アイデア・コンテストが継続的に開催されている。 コロナ禍が収束した後、ベトナムのスタートアップ企業の数はさらに増加し、国内外からの投資は増加すると予測できる。
まとめ
現在注目を集めている、ベトナムの代表的なITスタートアップ企業10社を紹介した。
具体的にはShopee, Society Pass, Telio, SKY MAVIS, Tiki, VNG, VNペイ, MOMO, Elsa Speak, Reverの10である。
経済にまだまだ発展の余地があるベトナムでは、今後より多くの革新的なスマートフォンアプリが、投資家からのより多くの出資を受けて生まれると考えられる。
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