2018 年に開始された、ASEANの各都市のスマートシティ促進を目的としたASEAN の取組「ASEANスマートシティ・ネットワーク」ではASEANの各10 ヵ国から26 都市が選ばれ、民間企業・諸外国との連携を通じたプロジェクトの推進が目指されている。
その中でベトナムからはハノイ、ダナン、ホーチミン市の3都市が、同ネットワークへの参加を表明している。現在、ベトナムの各3都市ではすでに地場不動産開発会社、地方自治体を中心として開発がすでに着手されており、日系企業含めた多くの外資系企業も、開発に参画している。
今回はその中で、日本からは住友商事が中心となって開発が進められているハノイ市郊外におけうスマートシティ開発を取り上げ、今後のベトナムにおけるスマートシティ開発の発展の方向性を見ていくこととしたい。
世界的なスマートシティ開発の趨勢
2016年10月に開催された第三回国連人間居住会議(ハビタットⅢ)において採択されたニュー・アーバン・アジェンダにおいては、世界の都市人口は2050年までに倍増し、UN World Urbanization Prospects(2018)によると、2050年には都市化率も68%に達すると予測されている。
このような急激な都市化が進む地域においては、人口流入に対して必要とされる住宅や基礎インフラの整備が追い付かず、交通面、環境面等での弊害が発生する等の申告な問題が発生する可能性がある。
これらの都市課題を解決する手法として、2010年頃からスマートシティの取り組みが広まってきた。初期においては、特定技術の活用を念頭に置いたエネルギーや交通分野といった個別分野での効率化などが論じられてきたが、近年においては都市全体や住民視点での都市課題を解決するための「分野横断型」の取り組みが注目されている。
ASEANおよびベトナムにおけるスマートシティ開発
こうした世界的なスマートシティ開発の流れの中で、2018年にはASEANにおける各都市のスマートシティ開発を促進することを目的として「ASEANスマートシティ・ネットワーク」が発足した。そこでは各10か国から26の都市がスマートシティ開発のパイロット都市として選ばれている。ベトナムからはハノイ、ダナン、ホーチミン市の3都市が選ばれた。
ベトナム政府は2018年8月、スマートシティ開発に向けた指針を示すため、首相決定950/QD-TTg「2018年から2025年までのベトナムの持続可能なスマートシティ開発計画および2030年までの方針」を公布した。同決定ではICTを活用することで、都市行政の効率的な管理、土地やエネルギーなど資源の効率的な活用、生活の質の向上、社会経済の発展を目指す方針が示された。
政府の活動予定としては2020年までに開発のために必要な法整備を行い、2025年までには3都市以上でのスマートシティの試験運用を開始することとしている。
ハノイ市におけるスマートシティ開発
首都ハノイ市はスマートシティ構想を推進する方針で、2018年6月、地場不動産大手のBRGグループと住友商事による投資案件を認可した。この案件は、ハノイ市ドンアイン区の272ヘクタールの土地を開発し、投資額は約42億ドルを見込んでいる。また住友商事は2020年11月には日本企業の各技術を結集してスマートシティ開発に活用することを目的として、NTTコミュニケーションズ株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社、日本電気株式会社(NEC)、株式会社博報堂、三菱重工エンジニアリング株式会社の5社と、共同で事業化を検討するためのコンソーシアムを組成した。
各社の強みを発揮して、コミュニティ、モビリティ、エネルギー、デジタルインフラといった各分野において、具体的なサービスおよびタウンマネジメントのあり方を検討し、各社の知見を集約し、外部の助言や協力も生かし、コンソーシアムとしての事業化の方向性を固め、ベトナム企業とも協業も検討していく予定である。
また韓国の国土交通部は2020年11月、韓国海外インフラ都市開発支援公社(KIND)と大韓貿易投資振興公社(KOTRA)と共同で、ベトナムを含む4か国に「スマートシティ・コオペレーションセンター(Smart City Cooperation Center)」を設置し、開発における韓国企業の競争力を高めるための支援を行っている。
今後のスマートシティ開発における発展の方向性
上記で事例として取り上げたハノイ市スマートシティ開発では、コンソーシアムにより3つのコアバリューが掲げられている。
① Clean / Green
② Safety / Security
③ Connect / Mobility
このコアバリューはあくまでハノイ市の開発におけるコンソーシアムが検討する内容であるものの、今後他の都市にも展開されるスマートシティ開発においても参考となるコアバリューであると言えるだろう。ここでは上記の3つのコアバリューにおいて日系企業が提供できるソリューションについて、見ていきたい。
まずClean / Green の点で主軸となるのは「環境への配慮」である。都市計画の面からはエネルギー(電力)の供給をより環境に配慮した方法へと転換していくことが挙げられる。また排気ガスを減らす等のモビリティの面からも、新しい手段を考えていく必要がある。
Safety / Security においては、「サイバーセキュリティ」および「災害につよい街づくり」の2つが主軸となるだろう。サイバーセキュリティにおいては顔認証などを活用した情報の保護、また災害への対策においては洪水、火災などを想定した都市計画および防災機能、さらにそれらを実現するためのデータ収集等が挙げられる。
Connect / Mobility においては「移動をより快適にする」および「データへの容易な接続」の2つが軸となる。MaaS等により交通インフラをより効率的に、快適にすること、行政データのデジタル化、手続きのオンライン化がスマートシティ開発と共に進めていく必要がある。
まとめ
スマートシティ開発それ自体は、非常に多くの側面での技術開発、導入、インフラ整備を含んだ非常に大きな計画である。その中で日本の各企業の強みを活かした技術が、どのようなポイントで提供できるか、どのように他の企業との競争に打ち勝っていくべきかを検討することが非常に重要となる。
スマートシティ開発のコアバリューやソリューションは各都市の開発計画によって多少の異なりはあるものの、今回挙げた3つがどの都市開発にも共通してくる方向性であることは間違いないであろう。