本レポートではベトナムの人口増加傾向と、それに伴う高齢化、産業構造の変化、介護企業などの需要性を解説する。
ベトナム人口の増加傾向
外務省によると、2020年に発表されたベトナムの人口は9762万人であった。ベトナムの人口は世界で14位に位置する。
ベトナム戦争中の1960年、ベトナムでは0〜4歳の割合が最も多く、多産多死で人口は不安定な状況だった。ベトナム戦争終結後も出生率は伸び続け、子供の数は更に増え続けていった。ベトナム政府は戦争から13年後の1988年に「二人っ子政策」を実施し、人口抑制を試みた。その後、段々と出生率は落ち着いていき、2000年頃には女性一人当たり子供2人が一般的になった。
ベトナムにおける高齢化
2017 年、ベトナムは国連によって高齢化社会(高齢者人口比率 7%)、2034 年には高齢社会(高齢者人口比率 14%)になると予想されていた。実際に、2017年の統計総局(GSO)の発表によると高齢化率は11.9%となっており、予想を上回る速度で高齢化が進行していることが判明した。
最も出生率が高かった1960年代に生まれた子どもが、2020年に60代の高齢者になっているので、確実に高齢社会へと進んでいると言えるでしょう。(ベトナムでは60歳以上の国民を高齢者と定義している)
総人口に占める生産年齢人口 (15歳~64歳の人口)が増え続け、経済発展が促進される時期を、一般に人口ボーナス期と呼称する。人口ボーナス期に経済成長ができないと、失業者が増加し、経済のみならず治安も悪化する。
ベトナムは人口ボーナス時期に外資企業を多く誘致し雇用を増加させたので、失業率も高まらず、一層の経済成長を成功させた。
高齢化に伴う社会保障問題への懸念
ベトナムが高齢社会を迎えるにあたって、問題点として挙げられるのは高齢者をケアする環境が未だ整っていないことである。
ベトナムの社会保障システムは、先進国と比較すると未発達で、現在のままの保障制度で高齢社会を迎えると、2030年には年金の確保が継続できなくなると予測されている。
主な原因は、年金基金への加入者が非常に少ないことと、年金が賦課方式であることである。定年年齢が男性は60歳、女性は55歳と若いので、納付額と給与額のバランスが不釣り合いな状態だ。
高齢化による介護ニーズの増加
現在ベトナムでは、高齢者を自ら自宅で世話をしたり、もしくは家政婦を雇い世話をするという形が多く取られている。しかし、今後は高齢化が進むことによって、入居型の介護施設のニーズも広がると見ている。特に、世界で一番高齢化が進んでいる日本は、入居型介護の高い技術を持っており需要は高いだろう。ベトナムは人口ボーナス期の山を越え、現在は安い賃金で比較的若い年齢の労働者が多いため、進出する企業にとっては好都合である。
すでに2017年には、ビンズオン省に日本の介護企業が入居型の老人ホームをオープンしており、現地介護従事者が日本式の介護を提供している。
ニーズが高まる業種
今後ニーズが高まるものとして、介護事業のみならず医薬品や健康食品販売、医療サービス、医療機器販売などのセクターが発展すると考えられる。
介護
ベトナムの介護対象者は様々な形で支えられている。主に家族関係、民間企業、公的施設、地域団体(慈善施設)、病院などが挙げられる。
ベトナム人は家族関係を重んじているため、自宅で介護することが多い。一部では、子どもが親の世話をしないのは悪いことだと考えられている。そのため、現在も田舎から都市部へ出稼ぎに行く息子が家族に仕送りをしたり、親の面倒を見るケースは頻繁に見られる。
今後は高齢者が増えると同時に、ベトナムでは所得中間層、富裕層がさらに増加していく。このことも、有料の民間介護サービスの需要増加を後押しするだろう。
医療品・健康食品
医薬品や健康食品販売について、ベトナム国内の商品はもちろん、日本や韓国の商品も通販サイトやFacebookで販売されており需要が高くなっている。現在は、ベトナムに近代的なドラックストアである Pharmacity や Guardian などが店舗数を増やしており、ベトナム人からの支持を集めている。ECで販売される場合も多いが、偽物も多く出回っているため、消費者からの信頼を得ることが課題である。
医療サービス
医療サービスは高齢化が進むにつれ、さらに増えていくことが見込まれる。
ベトナムの医療には、レファラルシステムが導入されている。レファラルシステムとは症状に合わせて医療機関同士で患者を紹介し合うシステムである。このルールに沿って受診することで、比較的低額で受診することが可能となる。 ベトナムは、日本と似た「国民皆保険」の制度を採用している。
しかし富裕層を中心に、レファラルシステムを無視して高度医療機関で受診をする人が増加し、患者の一極集中が課題になっている。
また、ベトナムの医療現場では医師の数が少ないことが懸念されている。2016年、ベトナム統計総局によると、ベトナム国内の医師は7万7539人であった。ベトナム人が医師になるには、4年間の基礎教育と2年間の専門教育から成る合計6年間の大学教育が必要である。
医療従事者の人材不足を是正するために、教育・訓練を受けるだけで資格を取得できる制度が施工されたものの、未だ解決には至っていない。
外国人が医師になるためには、ベトナム語の試験を受けなければなりません。もしくは医療通訳の可能な通訳者の常駐が必要です。しかし2012年には外国人医師が患者を死亡させてしまう医療事故が起こっており、規制強化の風潮が強くなっています。
医療機器業界
ベトナムの医療機器業界はローカル企業だけでなく、外資系メーカーの参入が目立ってきている。2020年8月にはベトナムのVINGROUPとアメリカのMEDTRONICが提携し、VINGROUPが製造した医療機器をアメリカとアイルランドに輸出するという新しい事業が開始された。
また、日本からベトナムへの医療機器の輸出販売を行う際の規定は、ベトナム保健省通達30/2015/tt-bct号(2015年10月12日発効)によって定められている。ベトナムに輸出できるのは新品のみで、中古医療機器は全面的に禁止されている。
医療機器を輸入できるのは、医療機器の販売と輸入業の事業登録証明書あるいは投資証明書を有する法人である。
また、医療機器の技術サポートを行う業者は、医療分野の学位取得者で医療関係の研修を積んだ担当者を雇用しなければならない。さらに医療機器の保管場所やその確保、機器へのラベリングも必要だ。
まとめ
人口増加傾向にあるベトナムでは、高齢化によって介護のみならずそれに付随するサービス、商品のニーズも確実に増えていくだろう。政府は徐々に高齢者を支える社会基盤や法律の整備を進めており、ベトナムで事業を展開している会社および展開を考えている会社は、この社会保障の変化も注視する必要がある。
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