PDP8の内容・概容
本レポートは2022年4月14日に加筆を行いました。最新情報はこちらから確認いただけます。
ベトナム商工省は2021年9月5日に、第8次国家電力マスタープラン(以下、PDP8)の草案を公表した。 PDP8草案は2021年2月にも公表されていたが、ベトナムの政権が代わったことにより、策定のやり直しが続いていた。
PDPの基本方針であるが、発電によって引き起こされる環境への悪影響を最小限に抑えることを目的として、再生可能エネルギーを最優先するという方向になっている。2021〜2030年の期間における基本シナリオでは商用電力の成長について、年平均で8.52%、高位シナリオでは9.36%と予測されている。
ベトナムの総発電容量は現状のところ、約 69.3GWであり、これには 16.5GWの太陽光発電(総容量の約24%)と0.6GWの風力発電が含まれている。 ベトナムの発電量の50%以上は、石炭火力発電が占めている。ベトナムは急速に増加する電力需要に対応するために依然として石炭火力発電への依存が大きくなっている。 ベトナム国内には多くの大規模な河川があるため、水力発電も重要である。 2020年時点では、水力発電を除く、風力や太陽光といった再生可能エネルギーがベトナムの発電量の5%を占めた。
PDP8にはPDP6、PDP7等に比べて、根本的な違いがある。 PDP6、PDP7は、主に水力、石炭火力、ガス火力といった電源を中心に開発してきた。しかし、今回のPDP8では、ベトナム史上初めて、再生可能エネルギーが中心の電力開発計画となった。PDP8には、投資制度、電力プロジェクトへの入札制度、送電網などに関する開発方針に関する記載が含まれる。また、PDP8は、企業が電源開発に積極的に投資を参加できるように、電源の構造と比率、配置場所、容量(MW)を明確に発表している。
2021年9月版のPDP8ドラフトによれば、電源開発の目標として、以下の通りとなっている。
2030年までの運転開始済み電源容量は130,371〜143,389MWとなっており、各電源の比率は石炭火力:28.3〜31.2%、ガス火力:21.1〜22.3%、水力・揚水発電:19.5〜17.73%、再エネ:24.3〜25.7%、輸入:3〜4%となる。
2045年までの運転開始済み電源容量261,951〜329,610MWで、各電源の比率は石炭火力:15.4〜19.4%、ガス火力:20.6〜21.2%、水力・揚水発電:9.1〜11.1%、再エネ:40.1〜41.7%、輸入:3〜4%となる。
送電網の開発について、PDP8は、近年発生している過剰容量の問題を解決するために、220KV以上の送電線を中心に開発していく方向である。開発計画に関して、商工省は、2021年から2030年の間に、約13,000kmのDLZと86GVA(500kV/ステーション)を構築すると述べている。
PDP8草案の重要ポイント
PDP8の重要ポイントを以下では解説していきたい。
ベトナム北部の電力需要が急速に増加
PDP8草案と改定PDP7の最も顕著な違いの1つは、南北部の電力需要の差である。 PDP8によると、北部の商用電力の割合は2020年の42.4%から2045年には45.8%に徐々に増加し、南部は2020年の47.4%から2045年までに43.6%に減少する。2040年までに、北部の商用電力の電力需要は南部の電力需要を上回り始めると予測する。結果として、これは、北部の需要を満たすために送電網と電源を開発するという従来とは大きな変更点である。
地域間の再生可能エネルギーの不均衡な開発の問題を解決
PDP8草案は、2030年の計画と比べて、太陽光発電の供給過剰になった地域を制限する方針がある。そのうち、中部高原地域(開発計画:1,500MW、現在登録:5,500MW)、中南部(開発計画:5,200MW;現在登録:11,600MW)、南部(開発計画:9,200MW;現在登録:14,800 MW)などがある。
風力発電では、 PDP8に承認された電源容量と政府が計画した容量を上回っている地域は中央高地(開発計画:4,000MW、現在登録:10,000MW)と南部(開発計画:6800MW、現在登録:17,000MW)。
PDP8草案は、ベトナムの再生可能エネルギーの持続可能な開発を確実に実行するために、この不均衡を解決しなければならないと述べている。 また、再生可能エネルギーに関する将来の政策は、FITではなく入札制度に基づくと想定されている。
再生可能エネルギーの開発を優先
PDP8草案では再生可能エネルギーは、2030年までの電力システム開発プログラム全体の期間に沿って、地域間で経済的、技術的および運用の基準を確保しながら、合理的な開発を引き続き優先する方針が策定されている。再生可能エネルギー(水力発電を除く)は約現在17,000MWから2030年には31,600MWとなり、電力システム全体の総設備容量の約24.3%を占める見込みである。
石炭の電気的電力の重量を削減
PDP8は、新設の石炭火力発電所の開発を規制する。2030年の基本シナリオにおける石炭火力発電所の総設備容量は40,700 GWであり、PDP7より約15,000MW削減した。PDP7で首相によって承認された石炭火力発電プロジェクト、そのほとんどは商工省によって実行可能性の高い投資家を抱えており、PDP8で引き続き展開していて、計画通りに実行していく。ハイフォン、クアンニン、ロンアン、バクリュウなどの地域で多くの承認されなかった石炭火力発電プロジェクトは、環境に優しいLNG火発プロジェクトに置き換えられる。
したがって、2030年までに、石炭火力発電の割合は、基本ナリオでは約31%、高負荷シナリオでは約28%にすぎない。
2021年2月版のPDP8草案との違い
2021年2月版の PDP8との違いについても分析していきたい。
電力開発に投資する総投資金額を引き下げ
ベトナム政府は電力開発に投資する総投資額を、2月版ドラフトの金額と比較し削減した。具体的には、 2021~2030年の総投資額が1,283億米ドルから887〜1,015.5億米ドルに、2031~2045年が1,923億米ドルから1,631.4〜2,088.9億ドルとなった。
送電線より電源を開発する方向を固める
2月版のPDP8ドラフトより、PDP8の最新版には送電線の開発に投資する金額の割合大幅に削減したが、電源に投資する金額の割合は大きく増加した。詳細については以下の通りである。
2021~2030の期間における電力の総投資額のうち:送電線は26%から14%に引き下げ、電源は74%から86%に増加した。
2031~2045年の期間における電力の総投資額のうち:送電線は27%か17%に引き下げ、電源は73%から91%に大幅に増加した。
再生可能エネルギーの割合を引き下げ、石炭火力の割合を増加
2030年までの再生可能エネルギーの割合は、2月版の草案では29%だったが、9月版の草案では25.7%に削減された。 さらに、石炭火力の割合は、2月版ドラフトより拡大した。
石炭火力・LNG火力の承認待ちプロジェクトを多く除外
ベトナム政府は9月版PDP8草案にて精査中の石炭火力及びLNG火力プロジェクトを承認待ちリストから除外したため、石炭火力及びLNG火力の計画する発電容量も引き下げた。
ベトナム政府は、今後の石炭火力発電所の建設について、既に計画されている案件以外の新たな開発は認めない方針を示している。
【最新情報】2022年2月版PDP8ドラフトについて
2022年2月21日にベトナム政府官邸で、「2021年から2045年までの国家電力開発マスタープラン」(以下:PDP 8)の策定状況の報告会が開催された。この会議でベトナム商工省から提案された「2022年2月版PDP8ドラフト」では、前回の2021年9月版から複数の大きな変化があった。
具体的には以下のとおりである。
- 太陽光発電源の容量を削減
- 洋上風力発電源の容量を増加
- 石炭火力発電プロジェクトをガス発電プロジェクトへと転換
- 原子力発電の開発に関する問題や仕組みの研究
洋上風力発電源を増加、石炭火力発電を削減
商工省は2022年2月のPDP 8 ドラフトで、2030年までに設置される総風力発電容量を約146,000MWに、2045年までには352,000 MW以上にすると提案した。この商工省の提案に対して、副首相Le Van Thanh氏(ベトナム電力開発マスタープランの策定の最高責任者)は基本的に合意する意向である。
一方で、副首相は2031年~2045年で目指す洋上風力発電の容量を更に増加させること、計画された太陽光発電容量を削減することを指示した。
また、報告会で商工省は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で宣言した2050年までのカーボンニュートラルを達するため、石炭火力発電所の開発計画を大幅に削減する方向でPDP8を調整していくという。
実際に、商工省は総容量2,020MWの「Bao Dai」、「Pha Lai第3」、「Quang Trach第2」等3ヶ所の石炭火力発電所の開発計画をPDP8から削除した。
また、総容量7,500MWの「ハイフォン第1」と「ハイフォン第2」、「ロンアン第2」等の3ヶ所のLNGガス発電所もPDP8には盛り込まれなかった。これらの除外された発電所に取って替わるのは、陸上風力発電、洋上風力発電、および太陽光発電である。
商工省の計算によると、2045年までにベトナムの電源の総設備容量は約25,000MWに増加する。その中で、陸上および沿岸の風力発電源の容量は5,000 MW増加、洋上風力発電源は3,000 MW増加、大規模太陽光発電源(ソーラーファーム)は13,600 MW増加、屋上太陽光発電は3,400MW増加する。また、水素発電は4,300 MW増加し、水力発電は4,300MW増加、揚水発電および蓄電池設備は5,400MW増加すると判明した。
再生可能エネルギー源の増加により、22年2月版のPDP8ドラフトでは、前回より2030年までは500万トン多く、2045年までは3800万トン多くCO2排出量が削減されている。
しかし、商工省の計算では、クリーンエネルギーへの移行に係る電源開発コストが大幅に増加している。2022年2月版PDP8ドラフトで示されている予算は、前回の2021年12月版より369億米ドル(約2.8%)高くなっている。
また2022年2月版PDP8ドラフトでは、2045年の電力生産の平均コストが12月版より0.31 UScent / kWh高く(約4.3%増)なっている。
2021年の1年間で副首相と商工省は約20回の会議を実施したが、今のところ、PDP8の完成版はいまだ策定できていない。
PDP7に含まれる発電プロジェクトの監査
2022年に入ってすぐ、ベトナム政府の監査官は、PDP7および改訂PDP7に含まれる電力プロジェクトや発電所の投資・建設・管理・発電などの活動を監査することを発表した。
監査官による監査決定に関与する機関や団体は、商工省、ベトナム電力公社(EVN)、ベトナム石油ガスグループ(PVN)、ベトナムの石炭、鉱物産業および多くの再生可能エネルギープロジェクトを抱える6の地域(ニントゥアン省、ビントゥアン省、ダックラック省、ダックノン省、ビンフォク省、バクリュ省)である。
ベトナム電力業界の専門家によると、PDP 8の策定は最後段階に移っている。ただし、政府が過去のPDP7で承認した発電プロジェクトの活動を監査するという動きはPDP 8の完成に一定の影響を与え、PDP 8の完成版の発表が更に延長される可能性がある。
監査対象になる6の地域のほとんどは、近年急速に太陽光発電が開発されたところである。特に日射量等の条件が良好であるニントゥアン省、ビントゥアン省、ダックラック省は、近年送電線の過負荷を起こした。
2020年のベトナムには、全国に89ヶ所の風力・太陽光発電所があり、総設備容量は4,543 MWであった。そのうち、ニントゥアン省とビントゥアン省には38ヶ所の風力・太陽光発電所があり、総設備容量は2,027MWであった。ベトナム全国の風力・太陽光発電の総設備容量のうち約半分を、この2省で占める形である。
2022年3月末、ベトナム監査官及び商工省の共同記者会見で、複数地域の電力会社や人民委員会で太陽光発電の開発に際して違反があったと発表された。
まとめ
2022年2月に、ベトナムのPDP8最新ドラフトが公開された。要点としては
- 太陽光発電源の容量を削減
- 洋上風力発電源の容量を増加
- 石炭火力発電プロジェクトをガス発電プロジェクトへと転換
- 原子力発電の開発に関する問題や仕組みの研究
の4つが挙げられる。
ベトナムのPDP8策定は間違いなく最終段階に入っているが、PDP7で承認されたプロジェクトの監査等新しい動きも見られる。もう少し追加で時間がかかりそうだが、2022年内にPDP8が完成する可能性は十分高いと考えられる。
今後の見通し
今後、PDP8は首相の承認を経て、最終的に公表される見込みである。2021年10月3日、PDP8評価議会はPDP8草案を評価し、承認することを決議した。従って、 2021年10月には、ベトナム商工省が首相に対してPDP8の内容を検討と承認を求める予定である。 PDP8の正式版は2021年末までに承認されると予測されている。
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