現在のベトナムと日本の貿易
本レポートでは、日本とベトナムの間での貿易について紹介する。具体的には、輸出と輸入それぞれの金額の推移と、品目の内訳、今後のトレンドの3点について説明する。
本レポートを読めば、日本とベトナムの貿易について、網羅的に理解が深まるだろう。
日本の対ベトナム輸出額の推移
上の図表を見ると、日本の対ベトナム輸出額は順調に成長していることが分かる。2013年には微減しているが、トータルで見ると10年で2倍以上にも増加した。2021年6月現在、もちろん年単位での結果はまだ分からないが、日本全体の輸出高は2020年を上回るペースで増加している。
日本の対ベトナム輸入額の推移
対ベトナム輸入額も、輸出額と同じく順調に成長してきた。2013年と2015年に微減しているが、トータルでは10年で3倍弱にもなっている。グラフで見ると、輸出額の方と非常に似た推移の仕方だと言える。ただこちらの輸入額の方が、全体的に輸出額より金額が高くなっている。つまり日本は対ベトナム貿易において、赤字を計上し続けている状態である。
具体的な貿易品目の紹介
ここでは、日本とベトナムの貿易品目を、前もって紹介する。その後で、具体的な金額や構成比を、グラフを用いて示す。貿易品目は非常に細かく分けられて統計されているので、物品を大雑把に区別した、「概況品」という概念を用いて紹介する。概況品は10種類に分類されるが、そのまま紹介すると項目数が多すぎるので、最も取扱額の少ない2品目を本レポートでは取り上げない。排除する2項目は、「飲料及びたばこ」と「動植物性油脂」である。加えて、品目名だけ聞いてもイメージが難しい品目もあるので、ここで各品目を掘り下げて説明する。本レポートで紹介する品目は、「食料品及び動物」、「原材料」、「鉱物性燃料」、「化学製品」、「原料別製品」、「機械類及び輸送用機器」、「雑製品」、「特殊取扱品」の、8つである。
食料品及び動物
「食料品及び動物」は、そのまま食べ物全般と動物を指している。野菜や肉、魚類はもちろん、香辛料や飼料、ペットフードも含まれている。
原材料
「原材料」は主に、皮革、ゴム、木材、繊維、金属鉱で構成されている。量は少ないが、寒天もここに含まれている。
原料別製品
原料別製品は、前述した「原材料」を加工した製品を指し、中間財と最終財の両方が含まれている。例えばゴムを加工したタイヤや、木材を加工した紙などである。繊維を加工した糸類も含まれるが、衣料品は含まれていないことが特徴である。
鉱物性燃料
鉱物性燃料は、石炭、コークス、石油や潤滑油がメインとなっている。灯油や軽油など幅広い品目が含まれるが、コークスが全体の8割弱を占めている。コークスとは、石炭を蒸し焼きにして抽出する炭素の塊である。
化学製品
化学製品において、輸出入共に大きなシェアを占めているのは、プラスチックである。他には染料、化粧品、肥料、医薬品、も含まれている。
機械類及び輸送用機器
機械類及び輸送用機器には、非常にたくさんの品目が含まれている。機械類には旋盤、紡績機などの産業用機械はもちろん、電子レンジやヘアドライヤーといった生活家電も含まれる。またスマートフォンやPC、半導体も含まれている。輸送用機器はバス・トラック、オートバイなどで構成されている。
雑製品
雑製品は端的に言うと、「その他日用品・身の回り品」である。家具や衣料品類、カバン類、履物、カメラと時計も雑製品に含まれる。他には楽器、書籍、玩具、運動用具、文房具も含まれており、かなり幅広く多彩な物品で構成されているのが、雑製品の特徴である。
特殊取扱品
特殊取扱品は、ほとんど再輸出品で構成されている。再輸出品には定義が2つある。財務省の貿易統計上の定義と、税関法上の定義である。前者は、一度輸入され、原型のまま再び輸出された物品を指す。後者は修繕・加工のため、あるいは容器として輸入され、再び輸出される物品を指す。
本レポートでは財務省の貿易統計を情報源として使用しているので、前者の定義を用いて紹介を進める。前者の「輸入したものを原形のまま再輸出する」という定義は、一見しただけだと意味が分かりづらいだろう。例えば、イギリスの企業が商品をアジアで販売するときに、代理店機能を持った日本の企業・支社を経由する場合がある。つまり商品を開封せずとも、商品管理・販売戦略の一環として、日本を経由地にしているのだ。特殊取扱品・再輸出品という品目は、こういった事情で日本を通る物品が多いと推測される。
日本の対ベトナム輸出の品目内訳
日本の対ベトナム輸出では、機械類及び輸送用機器が全体の半分弱を占めている。金額でいうと約8,600億円にも達する。次点には原料別製品が入る。こちらも約3,500億円と高額だが、機械類及び輸送用機器の半分以下である。3番目は約2,000億円で、化学製品が入っている。反対に今回とりあげる8品目の中で、最も少額なのは鉱物性燃料である。金額は約120億円だ。
日本の対ベトナム輸入の品目内訳
日本の対ベトナム輸入では、雑製品が半分以上を占めている。金額は約8,800億円に達する。次点では約3,000億円で、原料別製品が入る。3番目は、輸出の方で1番だった機械類及び輸送用機器である。金額は約1,400億円だ。輸入の方で最も少額なのは、輸出と同じく鉱物性燃料である。金額は、約220億円となっている。
日本の対ベトナム貿易の今後のトレンド
本章では、日本の対ベトナム貿易における今後のトレンドについて、紹介する。言い換えれば今後流通額が増える見通しがある品目なので、将来ベトナムとの貿易を考えている方の一助になるだろう。
農産物
べトナムは世界的に見ても、農業、林業が非常に盛んな国である。意外に知られていないが、ベトナム産でシェアの大きい農産物は非常に多く存在する。例えば、コメの輸出量はインドやタイと肩を並べ、毎年トップ3に入っており、世界シェアの15%程度を占めている。カシューナッツの輸出量は世界1位であり、カシューナッツ生産量は2020年時点、17年連続で首位を維持している。また、コーヒー輸出量は近年、ブラジルに次ぐ世界2位であり、ロブスタ種コーヒーの生産量は世界1位である。このほか、天然ゴム輸出量世界第3位、ライチ輸出量世界2位等、世界市場を支えるベトナム産農産物が数多く存在する。
ライチ
ベトナムは果物生産が盛んな国であるが、近年はベトナム産フルーツの輸入が日本では増えている。ベトナムから輸入可能な果物はマンゴー、ドリアン、バナナ、ドラゴンフルーツがあげられるが、2020年にはライチ生果実の輸入が解禁された。ベトナムはライチ輸出量で世界第2位であり、品質が高いベトナム産ライチを日本に輸出しようという計画は以前からあったが、日本政府が定める植物検疫の問題をクリアすることができなかった。しかし、ベトナムの農業農村開発省と日本の農林水産省がバクザン省の19箇所の農園を指定し、一定の基準のもとで栽培されたライチを、加工工場で臭化メチルによる薫蒸などをした上で安全性を確保することに成功した。2020年6月下旬には初荷の1トンが輸出され、イオンなどが販売した。2020年内には100トンが日本向けに輸出される見込みである。
コーヒー
ベトナムは世界で2番目のコーヒー輸出国であり、日本向けの輸出量が近年は伸びており、首位のブラジルに迫る勢いであった。2020年、日本財務省の貿易統計によれば、今年1~7月のコーヒー生豆の輸入量はベトナムが首位であった。新型コロナウイルスの影響により。カフェ需要の減少でアラビカ種の輸入が大きく減少に転じる中、安価なベトナム産ロブスタ種の輸入が増えた結果となった。ベトナム産コーヒーはアラビカ種が中心であり、独特の苦みがあり、インスタントコーヒー製造や缶コーヒーの製造には欠かせない。
カカオ
日本が輸入するチョコレート原料のカカオの約70%はガーナ産であり、ベトナム産は0.2%にすぎない。アフリカや中南米と比べれば生産量が少ないため、日本ではあまりなじみのないベトナム産カカオではあるものの、フルーティーな香りや酸味が特徴で、近年では世界から注目を浴びている。ベトナム南部の観光向けの土産品としても定着してきており、ベトナム南部のベンチェ省やドンナイ省では栽培が盛んである。
水産物
ベトナムは大陸国だが海に面しており、水産物も非常に豊富である。また天然の物だけでなく、養殖も盛んに行われている。本レポートではエビとバサ(冷凍ナマズ)の2品目を紹介する。
エビ
ベトナム産エビのシェアが高まっている。養殖されるエビの代表例はスーパーでもよく見かける「ブラックタイガー」と近年になり供給が続く「バナメイエビ」である。ブラックタイガーは1尾30~40グラムの大型サイズが養殖の中心で、大型のエビフライなどによく使われる。2000年以降に、ブラックタイガーと入れ替わるように、中国やベトナムを中心にバナメイの生産が急増している。以前は養殖エビといえばブラックタイガーが象徴的な存在であったが、今ではバナメイがブラックタイガーを追い抜き、養殖エビの大半を占めている。2018年、日本に輸入されたエビ(活、生鮮、冷蔵、冷凍)は、全体で158,488トン。主な輸入先国は1位インドが35,530トン(22.4%)、2位ベトナムが30,728トン(19.4%)、3位インドネシアが24,080トン(15.2%)となっている。
バサ(冷凍ナマズ)
ベトナム産養殖ナマズ(バサ)の輸入量が近年は増加している。安価な価格帯と安定した供給力、高い汎用性を背景に、取り扱う小売店や飲食店、惣菜店が増えている。バサは白身魚で、主にフライとして消費されている。聞きなじみのない魚であるものの、知らず知らずのうちにバサを食べている人も多いのではないだろうか。日本に輸入される冷凍ナマズのほぼ100%近くがベトナム産である。
パルプ材・木質燃料
ベトナムでは林業が盛んであることは既に述べた通りであるが、木材の供給能力の高さから、木材が原料となるパルプ材、木質燃料の輸入が近年は増加している。
パルプ材
パルプ材として利用される木材は、製材残材や、他には使い道の少ない木材、人工林材などが中心である。輸入先について、針葉樹チップは、米国とオーストラリアの上位2ヶ国で約8割を占めている。一方で、広葉樹チップは、ベトナムが6年連続でトップシェアとなっている。10年前と比較すると、地理的に近いベトナム、タイなどのアジア地域からの輸入の割合が増加している
木質ペレット
日本では再生可能エネルギーの開発のために、バイオマス発電所が次々に建設されたが、燃料となるバイオマス燃料が不足しているという課題を抱えている。日本の木質ペレット輸入を支えているのはベトナムからの輸入である。従来、日本の木質ペレット輸入の相手国はカナダやオーストラリア、中国、タイやマレーシアなどの東南アジア諸国であったが、2014年以降は特にベトナムからの輸入が急増している。財務省の貿易統計によれば、2019年における日本のベトナムからの木質ペレットの輸入量は886,984トンに及び、長年日本の木質ペレットの輸入相手国の首位であったカナダからの輸入量を上回る結果となった。2018年の輸入量である373,524トンから約2.37倍にまで増加した。国別シェアを見てみると、ベトナムからの輸入は全体比で56.4%を占めており、次いでカナダからの輸入量は37.5%に留まっている。近年のベトナムからの輸入量の増加は顕著であり、2015年時点での輸入量は27,440トンに過ぎなかったが、2019年にはその約32.3倍に当たる886,000トン超にまで増加した。今後もベトナムからの輸入量は増加が続いてくものとみられる。
木製家具
ベトナムは製造業の拠点として多くの製造業が進出しているが、林産物が豊富であるため、木製家具の製造、輸出が盛んである。日本の木製家具の輸入先を見ると、中国が最大のシェア(48.5%)を占めているが、ベトナムはそれに次ぐ23.8%のシェアである。中国産のシェアが縮小する一方で、ベトナム産木製家具の輸入シェアは年々拡大しており、今後もベトナム産木製家具の輸入が増えていくだろう。
まとめ
本レポートでは、日本の対ベトナム貿易について、現状の構造と将来の見通しという2つの観点から紹介した。ベトナム政府は、2021年も前年以上の拡大を目指すと宣言しており、今後の動向から目が離せない。また本レポートでは、日本とベトナムの間でやり取りされている多様な品目について紹介したが、その品目構造にも更なる変化が予想されている。ベトナムでは賃金上昇の影響を受け、消費市場が急発展しているからである。このようにベトナムは今まさに急成長している国で、将来の予測は容易でない。しかしそれでも、ベトナムとの新たな輸出入を検討する価値は、十二分にあるだろう。