はじめに
2021年11月17日の日本経済新聞によると、法務省は現在2業種(①建設 ②造船・舶用工業分野)でしか認められていなかった特定技能2号への移行を、介護を除く全ての職種で認める方針であると報じられた。今回は、この度報じられた制度改正の方針は、外国人労働者市場にどのような影響を与えるのかについて、解説していきたい。
特定技能制度の概要
2019年より開始された特定技能制度では、「人手不足を補う」ことを目的に外国人を受け入れる制度であり、「特定技能1号」では5年間、「特定技能2号」では無期限で外国人が日本で就労することを許可するものだ。
特定技能制度と技能実習制度の違い
外国人材の受入では、「技能実習制度」が昔からよく知られていた。2021年6月末時点でも、日本にいる技能実習生の数は38万人以上であり、多くの企業で受け入れられている。しかし技能実習の本来の目的は、日本の進んだ技術を外国人材に教え、それを母国に持ち帰ってもらうことによる国際貢献であるが、実際には人手不足を補う人材供給源として捉えられているため、目的と実態が乖離しているという指摘が前々からなされていた。
また技能実習生を受入れる企業にも問題があるケースが多く、不当に安い賃金、認められていない多くの時間外労働などが多発し、実習期間中に失踪してしまう技能実習生も多く発生した。
こうした現状を踏まえ、「人手不足を補う」という目的で2019年に作られた制度が「特定技能」である。
特定技能制度では日本人と同等の賃金を支払うなど、日本人と同じように外国人材を扱うことが義務付けられている他、受け入れ前に「技能評価試験」と呼ばれる試験への合格、技能実習生としての実務経験が条件となる等、「相当以上の知識・経験をもった技術者」として外国人を受け入れることが明確に定められた。
これまで「単純作業者」として受け入れられることが多かった技能実習制度に対して、特定技能制度はより高いレベルの人材を、良い待遇で受け入れるための制度であると言えるだろう。
特定技能1号と特定技能2号
特定技能外国人は、「特定技能1号」と「特定技能2号」に分けられている。特定技能1号は在留期間が5年間となっており、家族の帯同もできない。また想定されている技術レベルは「相当程度の技能」となっており、想定されるレベルに応じて技能評価試験が作成されている。
また「特定技能2号」では、在留期間が無制限となり、実質的にずっと日本に在留することが可能となる。また家族の帯同も可能となる。その代わり想定される技術レベルは「熟練した技能」となり、レベルの高い人材が想定されている。ここで言われている「熟練」とは技術のレベルだけでなく、数人の部下をまとめて作業を行うチームの「班長」としてのマネジメントスキルを求められている。
検討されている制度改正が意味するもの
現在検討されている特定技能の制度改正は、外国人材市場にどのような影響を与えるのかについて見ていきたい。
14分野全てで無期限の外国人受入が可能になる
特定技能1号の受入が認められているのは以下の14業種となっている。
1.介護業
2.ビルクリーニング業
3.素形材産業
4.産業機械製造業
5.電気・電子情報関連産業
6.建設業
7.造船・舶用工業
8.自動車整備業
9.航空業
10.宿泊業
11.農業
12.漁業
13.飲食料品製造業
14.外食業
しかし、特定技能2号を受け入れることが出来るのは、現行制度では「建設業」と「造船・舶用工業」のみとなっている。つまり、残る12業種では特定技能として5年間しか外国人を受け入れることができない制度となっていた(介護だけは、介護福祉士試験に合格することを条件に「介護」という在留資格で無期限の就労が可能である)。
しかし、もし法務省による制度改正が行われれば、上記14業種全てで、無期限に外国人材を受け入れることが可能となる。
全ての特定技能外国人に「永住権」への道が開く
さらに、特定技能2号として5年間外国人材が就労すれば「永住権」の取得も可能となる。
現在、永住権を取得するためには
①日本に継続して10年以上居住していること
②そのうち5年間、継続して日本で就労していること(技能実習・特定技能1号の期間を除く)
③生計を立てるだけの確かな収入があること
等の条件を満たす必要がある。これまで特定技能1号だけでは、永住権の取得条件を満たすことは不可能であったが、特定技能2号への移行が認められれば、永住権の取得可能性が発生することになる。
制度改正で注目されるポイント
今回行われる可能性が高い制度改正では、特定技能2号の業種の追加に加えて、以下のポイントに注目する必要があるだろう。
特定技能1号から特定技能2号への移行条件
特定技能1号から特定技能2号へ移行するには、「熟練した技能」を有しているかを確かめるための「試験」が行われることとなっている。しかし、特定技能2号に移行するための試験の内容は、まだ明らかになっていない。現在、特定技能2号への移行試験をどのような内容にするかについては、各管轄省庁が業界団体と協議しながら検討を進めている最中である。
移行試験を簡単にしすぎてしまうと、質の低い外国員労働者を多く受け入れてしまうことになり、受け入れた業界全体の技術レベルが低下することが懸念される。一方で、試験の難易度を高くしすぎてしまうと、受入れ可能な人材が少なくなり、制度自体の意味が無くなってしまう。
特定技能1号から2号への移行で、どのようなハードルが設定されるのかは、これから採用する企業はもちろん、すでに特定技能1号を採用している企業も気になるポイントである。
制度改正に合わせて、特定技能1号の対象分野が追加されるか?
現在、特定技能で受け入れ可能な分野は14分野であるが、今後新たに15分野目、16分野目が追加される可能性もある。
ONE-VALUEが独自に各業界団体へヒアリングを行ったところ、以下のような分野が追加される可能性があると予想している。
小売業
すでに全国のコンビニやスーパーでは多くの外国人が働いている。しかし現在「小売業」は特定技能の対象職種ではないため、実際に働いているのは留学生等のアルバイトである。しかし入管法によると、留学生等のアルバイトは週28時間までという時間制限があり、各企業は彼らのシフト調整に苦労している。
小売業は外国人材が以前から多く働いている業界であり、かつ多くの人材が必要となる業界であるため、今後特定技能の対象となる可能性が高いと予想される。
物流業
コロナ禍において、物流業における人材不足が改めて浮き彫りとなった。今後ECサイトの利用者やネットショッピングが増えていくにつれ、物流業のニーズは増々高まっていくと考えられる。特に物流の根幹を担うトラック運転手や、倉庫にて荷分けを行う作業員で人材不足が発生している。物流業の各業界団体は国土交通省や法務省などの関連省庁に働きかえを行っており、分野追加が検討されている分野の1つである。追加されるに当たっての課題としては、トラック運転手の場合必要となる中型・大型運転免許を外国人材にどのように取得させるかという点がある。外国人も気軽に入校できる教習所の整備や、海外免許の切替制度を整えるなどの対応が必要になるだろう。
林業
現在、農林水産業の中で唯一「林業」のみが特定技能の対象となっていない。この理由は、林業が他の分野と比べて危険の伴う仕事であること、それに付随して労働災害発生率が高いことが背景にある。とはいえ、現在国内の多くの林地の木材が「伐採期」を迎えており、人材確保のニーズが非常に高い。
今後は外国人材の安全を確保しつつ、林業における人材受入を行うには、外国人でも理解できるマニュアルを基準化すること、資格制度によって外国人材が従事する業務に制限をかける等の対応が必要となるだろう。
最後に
今回は、特定技能制度の改正の動向、制度改正が外国人労働者市場に与えるインパクト、さらに今後新たに対象となる可能性が高い分野について解説してきた。現在、各関連省庁は急ピッチで特定技能2号へ移行するにあたっての試験作り、スキーム策定を進めており、来年中には大きな制度改正が行われる見込みである。この改正により、外国人材採用の選択肢が大きく広がることになるため、外国人材採用に関心のある企業は今後の動向を注視していく必要があるだろう。
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