コロナ発生以降、日本国内では急速にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる。デジタル化が世界と比較して遅れている日本であるが、今後デジタル技術の活用と浸透は不可逆的な時代の変化となるだろう。
一方で、ベトナムでも近年になり、急速にDXが進んでいる。「リープフロッグ現象」という言葉で表されるように、基礎インフラの整備や法整備、既得権益の関係確立が進んでいない新興国で最先端技術の導入により一気に発展する現象が起きている。基礎インフラが整っていないベトナムでも、最先端技術の導入により、先進国を追い抜いて一気に発展することが今後起きてくるだろう。
例えば、日本ではいわゆる「白タク」と呼ばれるライドシェアは禁止されているが、ベトナムでは配車アプリのGrabが国民の間で普及し、数年前までそこら中で見かけたバイクタクシーの姿が消えた。料金体系が不透明で時にぼったくり問題が起きるバイクタクシーは過去の遺物になりつつある。
この記事では、ベトナムで急速に発展し続けるDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状と今後の見通しについて見ていきたい。
DXがもたらすベトナム社会の変化:労働生産性の向上
デジタル技術の活用が進むことで、ベトナムの各業界での労働生産性が飛躍的に向上することが予測される。特に、ベトナムにおいて、伝統的な技術の活用に固執している製造業や農業でこの変化は顕著になるだろう。また、デジタルトランスフォーメーションが国民一人当たりの所得、一人当たりのGDP増加につながる。
デジタルトランスフォーメーションがソリューションを提供できる分野は多岐にわたる。例えば、行政手続きのデジタル化である。ベトナムでは行政職員の対応が遅い等の問題が生じており、一部では賄賂も横行していると言われている。行政手続きの電子化により、こうした職員に依存する問題はなくなるだろう。
また、現金支払いが中心であるベトナムでも電子決済の普及が進んでいる。ベトナムの隣国のカンボジアでは、世界に先駆けてカンボジア国立銀行がブロックチェーン技術を活用して、安全・簡単・迅速かつ無料の決済・送金を実現するトークン型デジタル決済「バコン」が開発された。銀行口座を持たない国民の割合が多いカンボジアであったが、農村地域でもスマートフォンは普及している。中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の開発には保守的な姿勢のベトナムであるが、同じ共産党一党独裁の中国では既に実証実験が進められている。人口が比較的少ないカンボジアでは検討開始から正式導入までわずか4年程度で実現した。ベトナム政府の今後の取り組みが注目される。
DXの恩恵を最も受ける業界は卸・小売、製造、金融
出所:Australian Aid “VIETNAM’S FUTURE DIGITAL ECONOMY TOWARDS 2030 AND 2045”
2030 年及び 2045 年までのベトナム産業全体におけるデジタル技術の GDP への全体的な影響シナリオを表した図である。これによれば、デジタル技術の恩恵を最も受ける業界は、卸売・小売、製造、金融、建設が挙げられる。
ベトナムでは人件費が安価であるために、デジタル技術への投資より、大量の労働者による手作業が主流となっていた。今後、人件費削減の効果が高い製造業、卸売・小売、金融を中心にデジタル技術の活用が進んでいくものと考えられる
2045年までにベトナムが高所得国になるにはDXは必須
OECD(経済協力開発機構)は、2045年までにベトナムが高所得国になるためには、近代化プロジェクトへの投資、環境汚染の改善、マクロ経済管理と並んで、デジタル化推進は必須項目と指摘されている。OECDによれば、現在の成長モデルでは、2058年までにベトナムは高所得国にはなれないとしており、デジタル化による労働生産性の向上がキーポイントになるとしている。
ベトナムのデジタルトランスフォーメーションの領域
電子政府(行政のデジタル化)
ベトナム政府の改革によって近年になり、急速に進んでおり、多くのスタートアップ企業が関与している。この分野は広く、行政手続きの電子化に留まらず、公立病院における患者の管理システム、教育におけるデジタルツールの活用、ドローン活用、スマートシティ、住民登録を対象としたブロックチェーンといった分野も含まれている。
スタートアップ企業支援とエコシステム
ベトナム国内でも多くのスタートアップ企業が勃興しており、グローバル規模でのスタートアップ企業への投資は10億米ドルに及んでいる。
ICT 部門への外国直接投資
ベトナム政府の投資優遇措置により、ICT部門への多くの外国直接投資を引き付けている。特にITインフラ及び施設への投資が盛んになっている。
次回の記事では、ベトナムにおけるデジタル消費について焦点を当てて分析を続けていきたい。