はじめに
ベトナムを含めた海外進出で欠かせないのは、現地における優秀な人材確保である。日本企業が現地で人材を確保するためには仕事上のスキルはもちろん、日本企業のビジネスマナー、価値観を共有でき、日本語や英語で意思疎通をするための語学力も重要である。「チーフアカウンタント」はその中でも特に重要な、かつ優秀な人材の確保が難しい人材の1つである。今回のレポートでは、チーフアカウンタントについて解説していきたい。
チーフアカウンタントとは何か
チーフアカウンタントとは日本語では「経理部長」と訳されるが、その意味合いは単なる経理部のリーダーというだけにはとどまらない。
チーフアカウンタントは会計資格の1種
ベトナムでは、社内での肩書のみをもって「私はチーフアカウンタントです」と名乗れるわけではない。チーフアカウンタントとは当該人材が幅広い経理業務について知識と経験を有していることを示す資格の1種である。日本で似たような資格といえば「簿記」が思い浮かぶが、チーフアカウンタントは簿記とも異なる。簿記であれば筆記試験を受けて、その結果の点数によって合否が分かれるが、チーフアカウンタントの場合は試験への合格に加えて学歴要件、実務経験さらに講座の受講などの要件が加わっている。つまり経理の知識だけでなく、しっかり実務を経験していることが求められる資格である。
チーフアカウンタントは企業の会計部門をマネジメントする役割を有しており、スタッフの指導・管理、支払い等の承認、決算書の作成などを行う。また企業の銀行口座の開設、小切手の払出し、決算書の作成等にはチーフアカウンタントの署名が必要となる。
外資企業はチーフアカウンタントの採用が必須
ベトナムで設立された外国企業は、設立後2年目からチーフアカウンタントを任命することが義務付けられている。例外としては外部の会計事務所に委託をすることも可能である。しかし社内の全ての業務をアウトソーシングしてしまうとガバナンスが弱体化してしまうという懸念もあるため、外部委託する場合であってもやはり自社のチーフカウアンタントを1名任命し、抱えきれない業務を1部社外にアウトソースする方法が良いかもしれない。
チーフアカウンタントへのなり方
前述したように、チーフアカウンタントになるには試験への合格だけでなく学歴要件や実務経験の基準を満たすことが求められる。まず、4年制大学の会計学の学士号を有している者の場合、2年の実務経験を積んだ後、チーフアカウンタント認定コースを受講する必要がある。3年制の短期大学や専門学校の卒業者(会計の準学士号を有する者)の場合は、3年の実務経験を積んだ後、同じくチーフアカウンタント認定コースを受講する必要がある。この認定コースは財務省により認められた各大学、短大等で開講されており、約3~6ヶ月の期間で受講することができる。日中は仕事を行いながら、夜間にコースを受講するケースが多い。認定コースを修了した後は、認定試験を受験し、合格した場合に初めてチーフアカウンタントとなることが出来る。
日本企業のベトナム拠点で求められるチーフアカウンタントのスキル
前述のように、チーフアカウンタントになるにはいくつかの要件をクリアすることが必要だが、実際は同じチーフアカウンタントでもレベルに大きなバラつきがある。というのは、チーフアカウンタント認定試験の難易度は高くなく、何度でも受験することが可能であるため、ほとんどの受験生が合格してしまうためである。つまり、会計の学士号や準学士号を有しており、実務経験を認められた者であればだれもがチーフアカウンタントになれてしまうということだ。
しかし、資格取得の簡単さとは反対に企業におけるチーフアカウンタントの責任は重大で、企業の経理周りが円滑に進むかどうかはチーフアカウンタントの力量にかかっている。能力のないチーフアカウンタントを任命してしまった場合、社内の経理業務が立ち行かなってしまうだけでなく、税務申告等で重大な規定違反をしてしまい、当局から重いペナルティを科されてしまう事態にもなりかねない。ここからは、特に日本企業のベトナム拠点において、求められるチーフアカウンタントのスキルについて解説していきたい。
語学力
まず何といっても語学力の高さである。日本語でとはいわないまでも、最低限英語でコミュニケーションができる人材が理想だ。もしチーフアカウンタントがベトナム語しか喋れず、なおかつ当該拠点の責任者がベトナム語を喋れない日本人であった場合、責任者が社内の経理状況を全く把握できないことになってしまう。このことはガバナンスの弱体化だけでなく、不正が起こる原因にもなりかねない。事実、ベトナム拠点の日本人責任者が経理業務をチーフカウアンタントに丸投げしていた結果、後から横領などの重大な不正が発覚したという事例もある。日本語、または英語でしっかり意思疎通が可能な人材が欲しいところだ。
日本の会計制度に関する知識
国が異なれば会計ルールも異なる。日本とベトナムでも会計ルールが大きく異なっている。しかし企業によっては日本本社にベトナム拠点の決算状況を報告する必要があり、ベトナムの会計基準で作られた決算を日本の会計基準に基づいて調整しなければならない場面が出てくる。チーフアカウンタントには日本・ベトナムの会計基準の違いを理解し、適切な調整ができるスキルが求められる。
税務調査への対応経験
チーフアカウンタントに求められる実務経験として決算書の作成経験等が求められるのは当然であるが、通常の経理業務に加えて求められる経験の一つに「税務調査への対応経験」が挙げられる。税務調査とは当局の税務調査官が直接会社に乗り込んできて、企業の経理書類等をチェックし、税務違反がないかを確認することである。企業によって税務調査が入る頻度は異なっているが、税務調査官には大きな権限が与えられており、行ってしまえば調査官のさじ加減で税務ペナルティを受けるか否かが決まってしまう。誤申告等を原因とする納税遅延ペナルティの額は所得税額の20%であるが、悪質であると見なされた場合には所得税額の100~300%という非常に高額なペナルティが課されてしまう。そうならないためにも、いかに正確かつ丁寧に税務調査官に対応することができるかどうかが、チーフアカウンタントに求められるスキルの1つである。
誠実な人柄
最後に、言うまでもないことだが、会社のお金を管理する者として誠実な人柄が求められる。人柄を判断するのは容易ではないが、仕事に対する考え方や、前職をどのような理由で退職したのかを聞くことによって、ある程度その人物がどのような価値観を持っているのかは判断できるだろう。また、チーフアカウンタントは取引先、銀行そして当局など社外とやり取りをする場面も多い。そのため、基礎的なビジネスマナーを理解しているかどうかも、判断材料の1つとなるだろう。
最後に
今回はチーフアカウンタントとは何か、そしてチーフアカウンタントに求められるスキルや素質について見てきた。チーフアカウンタント資格という制度が国によって定められていることからも分かるように、ベトナムの「経理部長」の役割は日本と比較しても非常に大きい。幸いにも企業を設立してからすぐに採用が必要というわけではなく、設立後1年間は採用の猶予が与えられているため、本当に優秀で、信頼における人物を見極める必要があるだろう。
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