前回のレポートでは主にベトナムの土地使用権の取得方法を中心に解説を行った。ベトナムでは個人や民間法人による土地所有は認められていらず、国が所有する土地の「使用権」を個人が取得する方法で土地を利用できるのであった。一方で、土地の上に建てられる「建物」については個人や法人でも所有(購入)が可能である。しかし、外国人や外資系企業(以下、「外資系企業等」と言う)が不動産を所有しようとする場合には、期間や数量などに制限がかかる。また、所有できる不動産の種類にも制限が設けられている。今回のレポートでは、前回のレポートよりもより詳しく図解を交えながら、不動産購入の外資規制について解説していく。また後半では、M&Aスキームを活用した外資による不動産投資の形態について紹介していく。
不動産の購入
まずは、不動産の購入について外国人・外資系企業の場合はどのような制限があるのかについて見ていきたい。ここでは不動産の「種類」、「数量」および「期間」の3つの制限を図解によって解説していきたい。
外国人・外資系企業が購入可能な不動産の「種類」
ベトナムにおいて外資系企業等が購入可能な不動産は「住宅」に限られる。ここで想定されている住宅とは大型のコンドミニアムや、外国人向けに売り出されているヴィラ等である。例えば、ホーチミン市2区にある「ゲートウェイ・タオディエン(Gateway Thao Dien)」やハノイ市でビンホームズ(Vinhomes)が開発を進めている「ビンホームズ・スマートシティ(Vinhomes Smart City)」等は外国人投資家から販売枠がすぐに埋まってしまう程の高い人気を集めている。
また外国人個人と法人としての外資系企業でも、制限の内容が異なっている。どちらも「住宅」としての購入が認められているが、外資系企業の場合は「自社の従業員の社宅」として利用する目的のみ購入が認められる。
賃貸については外国人・外資系企業のどちらにも認められているが、外国人の場合は「自分が使っていない期間に他者に貸し出す」形での賃貸が認められており、ビジネスとして多くの不動産を同時に多くの第三者に貸し出す形態は認められていない。これは、多くの不動産を同時に所有し、それを複数人に貸し出す行為が「不動産事業」であると当局に認識され、不動産事業を行うためのライセンスを取得することが要求されるためである。外資系企業の場合は、自社の社員に対する賃貸のみが認められる。
外国人・外資系企業が購入可能な不動産の「数量」
外国人・外資系企業が購入可能な不動産は、当該物件が当局により「外国人の購入枠許可」を受けていることが第一の条件となる。その上で、コンドミニアムの場合は建物1棟あたりの総戸数の30%まで、戸建ての場合は一つの管轄地域(坊)の中の総戸数の30%までが外国人による所有が認められている(30%ルール)。「坊(phường)」とはベトナムにおける行政区画単位の1つであり、ホーチミン市の場合であれば「区(quận)」の次の下級単位となる。
外国人・外資系企業が購入可能な不動産の「期間」
外国人・外資系企業が購入可能な不動産の期間は、個人と企業の場合でそれぞれ異なる。個人の場合は不動産購入から50年間が所有の上限期間となる。この期間のスタートは、通称「レッドブック」と呼ばれる不動産購入の証明書の発給を受けた時点からである。またこの期間は1回の限り、さらに50年間の延長が可能であるとされている。しかし現実には外国人の不動産所有期間が50年間を超えた例がまだ無いため、実務上はどのような対応をされるのかは不明である。
企業の場合は、投資登録証明書(IRC)または企業登録証明書(ERC)に記載された期限が上限となる。IRCが延長された場合は、それに合わせて1回の限り延長が可能となる。
不動産事業ライセンスを取得した不動産運用
前述のように、外国人・外資系企業による不動産購入は「住宅」のみに限られており、オフィスビル等の物件は所有することができない。また、企業の場合は従業員以外の第三者への賃貸は認められていない。
ベトナムにて営利目的の不動産運用を行おうとする場合は「不動産事業」のライセンスを取得する必要がある。これは内資系企業であっても同様であるが、外資系企業の場合は内資系企業と比べて、不動産事業として行える事業内容に一部制限がかかる。 不動産事業法第66号/2014/QH-13によると外資系企業の場合は、不動産の販売、マスターリースを行うことができない。マスターリースとは不動産事業者が直接不動産のオーナーとなり、第三者へ不動産を貸し出す(リース)する形態である。つまり外資系企業が住宅やオフィスビル等を購入し、第三者へ賃貸することによって賃貸収入を得る形での不動産運用はできないこととなる。
しかし、不動産事業者が直接オーナーとならず、別のオーナーからマスターリースを受け、その物件を第三者へ又貸しする「サブリース」は認められている。以下にサブリースのスキームを図解する。
上記のスキームでは、まず貸主であるオーナーが不動産事業者に物件をマスターリースする。ここでは不動産事業者は「借主」となる。不動産事業者はオーナーに対して賃料を支払う。さらに、当該不動産事業者は別の第三者に物件を又貸し(サブリース)する。この時不動産事業者は「転貸人」となる。不動産事業者は転借人である第三者から賃料を受け取ることとなる。
M&Aによる不動産取得・運用
前述の通り、不動産事業法の規定により外資系企業が直接ベトナムの不動産を購入して賃貸・販売を行うことは不可能である。しかし、M&Aのスキームを利用することによって外資系企業であっても不動産運用を行うことが可能である。
M&Aの詳しいスキームについて、VietBizの運営会社であるONE-VALUE株式会社が独自に研究を行っているため、興味のある方はぜひ当社までお問合せをいただきたい。
まとめ
外資系企業による不動産投資は、以前と比べて緩和されたとは言え、まだ内資企業と比べると制限される分野が大きいのが実情である。しかし、M&Aのスキームを利用することによって、間接的にではあるが内資企業と同じように不動産事業を営むことが可能となる。
なお、本レポートの内容は不動産事業法第66号/2014/QH-13、住宅法第65号/2014/QH-13および土地法第45号/2013/QH-13とそれに付随する関連法規定を参考にしているが、法律と実態は往々にして異なることがあり、また法律改正や新たな法規定の発効により、上記の内容が大きく変更となる可能性がある。実際のベトナム不動産投資にあたっては、最新の規定に注意するとともに、専門家に詳細な確認を取る必要があるだろう。