はじめに:ベトナムのGDP
ベトナムでは経済発展に伴い、平均所得の増加、都市化・工業化が早いスピードで進んでおり、東南アジアでも特に経済成長が著しい国である。国民の生活水準は年々向上しており、人口も増加しているため、ベトナムの消費市場は世界でも有望な市場の一つとして評価されている。
2020年のベトナムの一人当たりGDPは、32万円達しており、2024年には45万円に増加すると予測されている。ベトナムの一人当たりGDP は、2010年から2020年の11年間で約2倍増加した。(世界銀行調べ)ベトナムはこの30年間、GDP のプラス成長を維持している。近年は7%前後の高い成長率を維持し続けており、最もコロナ禍の影響を受けた2021年でも、プラスの成長を遂げた。
このような背景から、ベトナムは消費市場としての注目を高めており、進出を検討する企業も増加している。一方で、ベトナムならではの文化や商習慣など、参入障壁もある。
本レポートでは、このような背景を踏まえ、ベトナムでの販路開拓の方法について考察・案内していく。
ベトナムの小売市場
ベトナムの2021年における小売・サービス市場規模は、4,789.5兆VNDであったことが商工省から発表された。この市場規模は2011年比約2.5倍となった。国民の所得増加に伴い、ベトナムの小売市場は毎年成長している。今後も、先述したGDP増加に伴い、小売市場の規模も拡大が続く見込みである。
小売市場の規模拡大に繋がっている一因として、ベトナム人の平均所得や可処分所得の増加が挙げられる。ベトナム統計総局によると、2010年に比べて、2020年の一人当たり月額平均所得は3倍増加し、4.19Mil VND/月(2.095万円/月)に達した。2016年~2020年の一人当たりの月間収入は平均で約8.2%増加した。 ベトナム政府が公表する「2021~2025年における経済・社会発展5か年計画」では、2025年の一人当たり年間GDPが4,700~5,000米ドルとなることを目標としている(45,000円-48,000円/月)。
ベトナム人の支出構成
ベトナム人の月間支出構成は、食品への支出が最多で34%を占める。次いでは教育・エンターテイメントの支出は第2位で、16%を占める。衣服・履物が13%で第3位となる。最も少ない支出は医療・ヘルスケアへの支出である。(Vietnam Report調べ)
ベトナムにおける小売チャネル
ベトナムの小売市場は、モダントレードが約2割を、トラディショナルトレードが約8割を占める構造である。都市部では、スーパーマーケットやコンビニエンスストアのようなモダントレードが浸透しつつある。また、ECの配送網も発達しつつある。その一方で、地方・農村部では、依然トラディショナルトレードが多い。
トラディショナルトレードは、個人経営の食料品・日用品店、雑貨店、携帯電話販売店等であり、パパママショップと呼ばれる零細事業者を介した小売りチャネルを指す。
ベトナムにおけるモダントレード
近年のベトナムでは、都市化が加速しており購買力も向上している。トラディショナルトレードがもうしばらく主流であり続けるが、モダントレードの注目度が上昇している。
スーパーマーケット
ベトナムではスーパーマーケットの店舗数が増加している。コロナ禍によって小売業全体が大きな影響を受けたが、2021年と比較して、2022年4月時点のスーパーマーケットの店舗数は7%増加した。スーパーマーケットの約23.8%はハノイ、23.3%はホーチミン市にあり、この2つの大都市に国内のスーパーの半分弱が集中していることとなる。2022年4月時点では、COOP MARTがベトナム最大手のスーパーマーケットで全国に128店舗を展開している。次点でWinmartであり、123店舗が展開されている。
コンビニエンスストア
Winmart+とBach Hoa Xanhの急成長によって、ベトナムにおけるモダントレードは大きく変化している。2022年4月時点でベトナム全国に6,735のコンビニがあり、2021年と比較して、29%増加している。2019年の店舗数からは2倍となっている。
コンビニチェーンのうち、Winmart+は2,601店舗を展開しており、最も多い。次点ではBach Hoa Xanhであり、2,147店舗を展開する。Winmart+とBach Hoa Xanhの2ブランドで、ベトナムにあるコンビニの70%を占める。
ドラッグストア
2019年から、ベトナムのドラッグストアの数が急増している。2019年時点ではベトナム全国に492のドラッグストアがあったが、2022年4月時点では約4倍の2,006店舗に達する。2021年から2022年4月の時点での店舗数を比較すると77%増なので、特に2021年以降にドラッグストアが急増していると言える。
ベトナム最大手のドラッグストアはPharmacityで、全国で1,000店舗を運営している。次点でFPT傘下のLong Chauが挙げられ、全国で535店舗を運営している。3位はAn Khang Pharmacyであり、210店舗を有する。日系のドラッグストアはマツモトキヨシのみが進出しており、ホーチミンに2店舗を構える。
ベトナムにおけるトラディショナルトレード
ベトナムのトラディショナルトレードは小売市場の約80%を占める、主流の販売チャネルである。2015年から2020年の間、ベトナム全国の公設市場の数は8,600前後で推移した。2018年からの3年間は増加しているが、グラフ上のピークである2015年には及ばない。また、この後の2021年にベトナムはコロナ禍の影響を最も受けたので、公設市場の数は今後大きく増加していくとは考えづらく、今後のベトナムではやはりモダントレード化が進行していくと考えられている。
ベトナムにおけるトラディショナルトレードと言えば、公設市場だけでなく、パパママショップ等も含まれる。大都市圏以外、特に農村部では、パパママショップは最も数の多い販売チャネルである。
パパママショップとは、夫婦やその親族によって経営される小規模の小売店である。Nielsenによると、ベトナムには140万のパパママショップがある。新型コロナウイルスによって、全国にパパママショップと雑貨店の経営活動が激しく影響を受けたが、便利で近い距離内で早く買い物できるため、これからよく回復すると予想されている。その反面、現在一部の伝統的なパパママショップと雑貨店が技術を導入して、近代化している。
ベトナム販路開拓の方策
本章では比較的安価にできる、ベトナム進出の方策を2つ挙げる。
マッチングイベント
民間で日越間のビジネスマッチングを支援する会社は多くある。一方日本政府が実施するものとして、JETRO(日本貿易振興機構) が出展支援する展示会・商談会も行われている。ベトナム企業と日系企業をマッチングし、文化・技術交流をするセミナーや、地方の名産品等の紹介マッチングなど、様々な形式で企画・開催されている。
バイヤーとの協業
現段階では、ベトナム市場とベトナム人消費者を深く理解している日本企業は少ない。そのため、単独で日本製品をベトナムで販売することは、ほとんどの日本企業にとって非常に困難である。
したがって、ベトナム現地企業との協力が有効である。近年では、例えばOEM製造が注目を集めている。
一方で、ベトナムでECが急成長している現在では、ベトナムの個人バイヤーとの協業も有望な方法の一つとして考えられている。インターネットで影響力のある個人バイヤーがFacebook、TikTok、YouTube等で商品を宣伝し、越境ECで販売する。発信力の高い個人バイヤーと協業し、ベトナム市場の新たな販路を開拓できる。
ベトナムのおける日本製品の販路開拓
本章では、ベトナム市場における日本製品の現状や課題、販路開拓のポイントを考察する。
日本製品のプロモーション
ベトナムでは以前から日本製品が大変人気である。しかし、良い製品ではあるがマーケティングに躓き、ブランドが認知されず、ベトナム人にあまり知られていない日本製品もある。そのため、ベトナムで商品を販売する前に、商品の価値を十分に理解して貰うことは非常に重要である。このようなブランディング、販路開拓においては、例えば以下のような考え方がある。
KOLマーケティングの活用
ベトナム人が製品を購入する際の意思決定には、口コミの影響が大きいという事実がある。Nielsenの調査によると、ベトナム人の9割が広告よりも、親族・友人・知人などからの口コミを信頼している。したがって、マス広告だけでなく、小規模グループのファンを有しているKOL(Key Opinion Leader)を通して商品を広告する方が、消費者に効果的に接することができる。
店頭で試食会
これはスーパーマーケットが頻繁に行っているプロモーションの形式である。販売先の消費者に味の好み・新商品への希望等の情報を直接収集できる。それらの情報を基に、メーカーはより精度の高い販売戦略を策定する。
文化交流イベント
いわゆる「ジャパンフェア」のようなイベントを行って、日越間の文化交流をしながら、商品を広告する。イベントに参加する人々に商品の情報を提供しながら、顧客体験を向上させることが出来る。
日本製品のベトナムでの販路開拓は、まずモダントレードの販売チャネルで展開し、プロモーションを柔軟に実施することを検討すべきである。ただし、長期的には現地生産、または現地ニーズに合わせた商品価格を前提に商品を設計し、供給していく必要がある。モダントレードで展開を開始し、トラディショナルトレードでも扱われるようになることが、理想的な販路開拓である。
これらの要素は、ベトナムだけでなく海外でのビジネス全般にも共通する部分が多い。
日本製品が人気な理由
昔からベトナムの消費者は、自動車・バイク・テレビ・冷蔵庫・洗濯機などで日本製に強い親しみがある。日本製の日常消費財(FMCG)はタイ製、中国製等と比較してあまり多く購入されていないが、近年では日本製の日常消費財への注目度が高くなっている。日本製がベトナムで好まれる理由は、例えば以下の3つが挙げられる。
高品質
ベトナムでも、日本製は高品質であると認知されている。日本製といえば、高い技術力と高い耐久性をイメージするベトナム人は多い。ベトナムの消費者は特に、先述した家電製品や自動車などの日本製品に、高い信頼感を抱いている。
ラグジュアリーなイメージ
ベトナムでは、国産や中国からの輸入品に比べて、日本から輸入した商品は概ね高価である。高品質かつ高価なので、多くのベトナム人は日本製品を贅沢品として認知している。そのため、ベトナムでは日本製品をお土産・プレゼントにする場合も少なくない。現在は、ベトナムの生活水準向上に伴い、日本製を自分へのご褒美にする傾向もある。包装が美しいことも、日本製品が持つラグジュアリーなイメージの形成に影響している。日本製品を専門的に扱う店舗やECのサイトも複数見られる。
高水準の安全衛生
ベトナム人の安全・衛生に対する意識は、コロナ禍をきっかけに向上している。特に食品・ヘルスケア・美容・ベビーケア製品に対しては、安全・衛生水準が高い製品の人気が高まっている。例えばベトナム国産の製品は、製品に含まれる原材料や農薬等が不明瞭なものが多い。高い安全衛生の水準とトレーサビリティは日本製の強みであるので、ベトナムでは日本製の食品・ヘルスケア・美容・ベビーケア製品等が非常に好まれている。
ベトナム人向けのローカライズ
日本製品には多くの強みがあるが、やはり日本人とベトナム人の嗜好は異なり、購入の決め手も異なる。したがって、ベトナムへの進出前に、事前にベトナム市場とベトナム人消費者の特徴を把握すべきである。ターゲットとする市場と消費者について深く理解した上で、自社の商品をベトナム人向けにカスタマイズすることは、非常に重要である。ベトナム人消費者の特徴として、例えば以下が挙げられる。
食習慣
ベトナムの国土は南北に長く、地域によって料理の味つけが多少異なる。北部の人は甘さや塩気を抑えたさっぱりした味を付ける。中部の料理は最も辛い。南部の料理は甘く味付けられている。日本料理は、ベトナム人からすると少し塩辛いと感じる事が多い。日系企業がベトナム市場に進出する際は、このような差異に合わせて商品をベトナム人の嗜好に合うように調整すべきである。
子どもを最優先
ベトナム人の親は、できる限り自分の子供のために最良なものを与えることが一般的である。日本でももちろんそうであるが、ベトナムではよりその傾向が強く、子どもの教育費等も年々増加している。食品、衣服、玩具、ベビーケア用品などを購入する時には、価格より商品の質と安全性が大切な要素となる。そのため、日本製はベトナムの多くの母親の選択肢である。
美容への関心向上
ベトナムでは女性だけでなく、男性も美容への関心が高まっている。美容への支出も増加しており、より高品質な美容品の需要も高い。美容は韓国企業が高いシェアを占めている。日本製の美容品も多様だが、ベトナム人消費者の好みに合う商品がまだ少ないと考えられる。
まとめ
ベトナムでの販路開拓の前提として、ベトナムという国とベトナム人への理解が重要である。
本レポートでは、日本とは異なる環境である、ベトナムでの販路開拓の概要を解説した。モダントレードの浸透や健康への意識向上など、検討すべき要素が多くある。いい結果を手繰り寄せるためには、入念な市場調査と現地企業との協業が必要不可欠である。
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