はじめに
ベトナムでは経済発展に伴う中間層・富裕層の増加から、日用消費財市場が急成長している。
ベトナム人の食品衛生と栄養に対する意識は、近年特に高まっており、牛乳・乳製品の需要は大幅に伸びている。 ベトナムでは元々、欧米や日本とは異なり、日常的に牛乳等をはじめとする乳製品を消費する習慣があまりなかった。ベトナムの日常生活において、牛乳・乳製品の存在感が増したのは割と最近のことである。
ベトナム消費者をターゲットとした販売の場合、日本とは異なる消費者のニーズや心理を把握することが重要になる。この記事では、ベトナム牛乳・乳製品市場の動向を分析し、消費者のニーズ、事業成功の要因について説明したい。
ベトナム乳製品市場の市場規模
Euromonitorによると、2020年のベトナム牛乳・乳製品市場の規模は58.6億ドルと推定されており、2019年の同時期に比べて8.3%の成長を遂げた。ベトナムの牛乳・乳製品市場は過去10年間で平均約11%の成長率を維持している。その中で、2019年より高水準で成長している製品は、牛乳(10%増)、ヨーグルト(12%増)、チーズ(11%増)、バター(10%増)、およびその他乳製品(+ 8%)があるが、粉ミルクは4%しか増加しなかった。
ベトナム乳業協会は、新型コロナウイルスが流行しているにもかかわらず、2020年の牛乳生産は順調に成長していると述べた。生乳の生産量は、2019年と比較して1%増加し、17億240万リットルと推定されている。粉乳の生産量は131.6千トンと推定され、2019年より9.1%増加した。
続いて、製品カテゴリ別の市場を解説していく。
牛乳市場
ベトナムの牛乳・乳製品市場は、ベトナム人の消費行為と嗜好を深く理解しているベトナム企業によってほぼ独占されている。もちろん外資系にも、FrieslandCampinaなど早期からベトナムの乳製品市場に参入し、成功している企業もある。同社は1995年にベトナムに参入している。
ベトナムの牛乳・乳製品業界で最大のシェアを占めているのはVinamilkである。2020年におけるVinamilkの市場シェアは、43.3%であった。 Vinamilkが2019年に合併したMoc Chau Milkを含めると、市場シェアの45%以上を占めることになる。次点でシェアが大きいのは15.8%のシェアを持つFrieslandCampinaである。これら以外で、10%を超えるシェアを持っている企業は存在しない。
粉ミルク市場
ベトナムでは、粉ミルクと聞けば子供向け製品を連想する人が多い。また、多くのベトナム人消費者は海外ブランドの粉ミルクが「高品質」、「安全」だと考える。そのため、ベトナムの乳製品大手であるVinamilkやNutifoodは粉ミルク製品を販売しているが、消費者は海外ブランドを選択することが多い。
また、Abboott、ENFA、森永等の有名な海外ブランド製品はベトナム国内での流通が多くない。そのため、ベトナム人はこれらの製品を購入するため、海外に住んでいる友人や親戚に購入してもらい、それをベトナムへ持ち込むケースが多い。
一方で、今後は子ども向けだけではなく高齢者向けの粉ミルクの需要増加が見込まれている。
ベトナムの人口は増加し続けているが、同時に緩やかに高齢化も進行している。所得増・健康意識の向上も踏まえ、高齢者が栄養価の高い大人用粉ミルクを求めることが見込まれている。また、ベトナムでは「子どもが親の面倒を見るのは当然」という親孝行文化が非常に強い。そのため、高齢者だけでなくその子どもである中年層からの需要も存在する。
まとめると、子ども向け粉ミルクの需要は人口増によって引き続き維持され、高齢者向け粉ミルクの需要は今後大きく伸びると見込まれる。現在、外国企業がこの市場を支配しているが、市場に参入した時期は比較的最近である。粉ミルクは輸送が容易で、冷蔵設備が不要である。さらに前述の通り、粉ミルクの消費者は高い品質を求めているため、日本企業が強みとする部分とニーズが一致しているため、有望である。
バター市場
日本等の国では、牛乳から分離した動物性の油脂を「バター」、植物性の油脂は「マーガリン」と、はっきり区別されている。一方、ベトナムの一般消費者は「バター」と「マーガリン」を区別せず、両方とも 「BƠ」(読み方:ボー)と呼んでいる。また、バターとマーガリンの違いをしっかりと理解しているベトナム人は多くない。
ベトナム人は、調理や食品加工の際にはバターではなくマーガリンを使用している。その理由は、バターよりマーガリンの方が安価というだけではない。
バターとマーガリンは、フランス統治時代にフランス人によって持ち込まれた。その時に、フランス人が高級なバターを使用し、ベトナム人は安いマーガリンを使用するという習慣が形成された。そのため、ベトナム人にとってはマーガリンの方に馴染みがあるというのも理由の1つとして挙げられる。
しかし、近年のベトナムでは所得増加に伴い、ベトナム人の食事や味覚の水準も高くなっているため、バターを日常的に使用し始める消費者も増加している。
ベトナムで最も有名なマーガリン製品は、Tuong AnとCai Lanという2つのブランドであり、両方ともベトナム国内企業によって展開されている。ベトナムのマーガリン市場には、有力な外資企業が未だ存在しない。
ベトナムマーガリン市場をリードしている2社は、両方とも大手食用油会社である。Tuong An社は小さな箱入りマーガリンを扱い、一般用小売市場に焦点を当てている。一方でCai Lan社は飲食店向けの業務用大容量パッケージを主力としている。
ベトナムでは動物性のバター製品は海外から輸入されることが多い。また、日本と同様にマーガリンより価格が高い。バターの消費者のほとんどは中間層以上の世帯である。ベトナムで販売されているバター製品には、Paysan Breton、Even、President(フランス)やAnchor(ニュージーランド)がある。
このようにバターの需要と消費は増加しているが、パパママショップやスーパーマーケット、コンビニエンスストアに行けば当然のように販売しているわけではなく、バターをまだ置いていない店は少なくない。
ヨーグルト市場
ベトナム統計局によると、2019年はベトナム全国で39万トンのヨーグルトが生産された。2019年のベトナム国内におけるヨーグルトの生産量は2018年に比べて17.65%も増加したと判明した。
ヨーグルトの消費量に関して、2019年の国内販売の売上高は前年比17.8%増加した。ハノイミルクは、ベトナム国内のヨーグルト市場が今後5年間で2桁の成長をすると見込んでおり、ヨーグルトは乳製品市場の中で最も有望な製品カテゴリだと述べた。
VINAMILKはベトナムヨーグルト市場の33.9%の市場シェアを持っている。VINAMILKが展開するヨーグルトブランドにはSusu、Probi、ProBeauty等があり、それぞれ別の消費者セグメントに向けてアプローチをしている。例えばSusuは、子どもをターゲットにしており、子どもの目を引くようなパッケージデザインを開発している。ProBeautyは「美容と健康に良い」というメッセージで、女性消費者をターゲットしている。また、ProbiはVINAMILKの主力製品であり、シンプルなデザインの包装ですべての消費者セグメントをターゲットにしている。
ヤクルト
ヤクルトは、日本企業によるベトナム乳製品市場への参入成功事例である。日本のヤクルトは、乳酸菌飲料というニッチな市場で、日本だけでなくベトナム含む海外で成功している。
2006年に、ヤクルトは2500万米ドルを投資して工場を建設し、ベトナムに参入した。日本の高品質や衛生管理基準を維持したまま、ベトナム全国をカバーする流通網の構築にも成功した。
2019年のベトナム農業学園の調査によると、ヤクルトはベトナムの発酵乳・乳酸菌飲料市場で70%のシェアを占める。
アイスクリーム市場
ベトナムの乳製品企業は未だ、アイスクリーム生産を強化していない。現在、ベトナムのアイスクリーム業界の市場シェアは、乳製品業界外の企業で形成されている。市場シェアの35%を占めるKinh Do Foodはベトナムで製菓会社として認知され、Unileverは日用品の製造を専門とする会社である。さらに、3番目のThuy Ta Foodは1945年に設立され、ベトナムで最初のアイスクリームブランドであったが、現在はアイスクリームの生産・販売ではなく、レストランやコーヒーショップの運営を主力事業として展開している。最近Vinamilkもアイスクリーム市場に参入し始めたが、2020年までに、アイスクリーム製品はVunamilkの売上の約7%しか占めていない。
EMIの調査によると、ベトナムのアイスクリーム消費量は2013年から2016年の間に年間15%ずつ増加していたが、生産量の伸び率は年間6%ずつに過ぎなかった。
ベトナムのアイスクリーム市場が未発達である理由の1つとして、コールドチェーンが未熟である点が挙げられる。ベトナムでは冷蔵冷凍倉庫、冷蔵冷凍トラックの普及が進んでいない。これはアイスクリーム市場だけでなく、生鮮食品全般にも当てはまる、ベトナムの産業が抱える大きな課題である。
ベトナムでのアイスクリーム流通
ベトナムのコールドチェーンは未発達であるが、アイスクリームの流通においては、バイク販売というローカルなコールドチェーンが見られる。
大都市や人口が密集している地域では、スーパーやコンビニでアイスクリームを買うのが普通である。一方で地方では、消費者がパパママショップやバイク販売からアイスクリームを購入することがよくある。アイスクリーム販売バイクによる販売方法は、ベトナムではMERINO社がよく用いており、売り上げが大幅に伸びた事例もある。
チーズ市場
チーズに関して、現在ベトナム市場でチーズを販売している企業(ブランド)は非常に少ないと言える。 ベトナム国内で「Con Bo Cuoi」というブランドを持つBel社(フランス)は、多くのベトナム人に認知されている唯一と言ってもいいチーズブランドである。 他に一定以上の知名度があるチーズブランドは、最近参入したVinamilkだけである。したがって、ベトナムにおけるチーズ市場は日本企業にとって、成長可能性が高い初期市場であることが考えられる。
コンデンスミルク(加糖練乳)
ベトナムの加糖練乳市場は、ベトナムの乳製品最大手である「VINAMILK」社がほぼ独占している。VINAMILKは「Ong Tho」や「Ngoi Sao Phuong Nam」といったブランドを持ち、個人や家庭向けの小売りだけではなく、喫茶店やコーヒーショップ向けの卸売りでも圧倒的なシェアを占める。
近年、VINAMILKから市場シェアを獲得するため、オランダのFrieslandCampinaやマレーシアのF&N Dairies Manufacturing Sdn Bhdがベトナムで加糖練乳製品を販売して、市場に参入し始めている。
しかし、ベトナム人の消費習慣を変更するのは簡単ではない。FrieslandCampinaやF&N Dairies Manufacturing Sdn Bhdの製品は、VINAMILKの製品と比較して、味や甘さ等異なる点が多い。多くのベトナム人は数十年単位で、VINAMILKの製品を消費してきたため、他の製品の受け入れ・乗り換えには非常に時間がかかると考えられる。
ベトナム乳製品市場の動向
本章では、ベトナム乳製品市場の動向について、新型コロナの影響とM&Aという2つの観点から解説する。
ベトナム乳製品市場とコロナ禍
ベトナムにおける乳製品の国内需要は、コロナ禍の影響をあまり受けなかった。2020年におけるベトナム国内での日用消費財の消費量は、前年より7.5%減少した。一方乳製品の消費量減少は△6.1%に留まった。加えて、この減少は、主に保育園や学校の閉鎖による、児童への供給量が少なくなったことが原因である。そういった教育機関が再開されれば、消費量は再び増加傾向に戻ると見られている。
2020年、ベトナムにおける日用消費財の消費量の11.9%を牛乳・乳製品が占めており、2019年とあまり変わらない。2020年の乳製品需要を後押ししたのは、主にベトナム人の健康意識向上である。特に新型コロナの感染拡大を受け、自身の基礎的な免疫力を強化したいと考えるベトナム人が増加した。加えてNielsenは、コロナウイルスが完全に抑制されてもベトナムにおける乳製品の需要は落ちず、2021年以降には、毎年約8%ずつ消費量が増加し続けると予想した。
ベトナムの乳製品市場における企業買収
ベトナムの乳製品市場では、大規模な買収・合併が続いている。 2019年には、VinamilkがMoc Chau Milkを買収した。2020年にはIDP(International Dairy JSC)がBlue Point とVietCapitalによって買収された。このようにベトナムの乳製品市場では、大規模な企業買収が連続している。
ベトナム乳製品市場のトレンドと課題
本章では、ベトナム乳製品市場のトレンドと課題について、3つずつ紹介する。
ベトナム乳製品市場における今後のトレンド3選
ベトナムでは現在、ベーシックな牛乳をはじめとする乳製品が十分に日常生活に浸透している。しかしそれだけでなく、社会の変化に伴って、ベトナムの乳製品にも新たな潮流が見られる。
伝統的な牛乳から植物性ミルクへの転換
植物性ミルクは、穀物、豆類、野菜など、100%植物性の原料から製造可能である。 動物性食品の代わりに植物性食品を使用することは世界的な傾向であり、ベトナムも例外ではない。ベトナム人消費者が伝統的な牛乳から植物性ミルクに切り替える動機として、牛乳アレルギー、抗生物質および添加剤に関する懸念、ビーガンの急増、大腸炎または炎症性腸症候群などがある。また、植物性ミルクは伝統的な牛乳と同じ栄養素を持っていると考える消費者が多い。
高齢者向け乳製品のニーズ増加
粉ミルクの部分で先述したが、今後は高齢者向け乳製品のニーズが増加すると見込まれる。
ベトナムは世界で最も高齢化が進んでいる10か国のうちの1つである。2019年時点でベトナム全国には1,141万人の高齢者がいるとされ、これは人口の約12%を占める。2035年までにこの数は2倍の2,100万人(人口の20%)になると予想されている。現在のベトナムにおける高齢者向け乳製品市場は、外資系企業が大きなシェアを取っている。今後は国内企業もこのセグメントに注目し、開発を強く促進していくと予測される。現在のベトナムで特に人気のある高齢者向け乳製品は、カルシウム増量牛乳、その他栄養補助牛乳、高齢者向けの食事に添える大人向けの粉ミルクなどである。
ベトナム大手企業は海外に進出
2020年におけるベトナムの牛乳・乳製品の輸出売上高は、2019年と比較して10.5%増の3億270万米ドルと推定されている。2015年時点では、海外に輸出をしているベトナムの乳製品企業は3社しかなく、輸出先も10か国程度だった。しかし2020年には、海外輸出をする企業は10社となり、輸出先は50カ国を増えた。
新型コロナウイルスの流行があっても、Vinamilk、Vinasoy、Nutifoodなどの大手の乳製品企業は、中国、中東、韓国、日本などの主要市場に対してコンスタントに輸出を続けている。これらのベトナム企業の輸出乳製品は、ヨーグルト、コンデンスミルク、ナッツミルク、有機ミルク、ソフトドリンクなど非常に多様である。
たとえば、Vinamilkは2,000万米ドル相当の乳製品を中東に輸出し、ナッツミルクとミルクティーを韓国市場に輸出している。または、Vinasoyの豆乳製品は、中国の6つの有力スーパーマーケットチェーン、11の有力なオンライン販売サイト、61社のスーパーマーケットで販売されている。
ベトナム乳製品市場の課題
政府の支援と高い国内需要にもかかわらず、乳製品市場には多くの課題が残っている。
品質の向上
Hanoi Milkの発表によると、ベトナム国産牛乳の約70%が栄養価の低い調整乳である。加えて、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP11)によってニュージーランドなどからの輸入が増加し、価格競争が激化しつつある。品質を向上できないまま価格競争がさらに進んでいくことは、ベトナムの乳製品企業にとって非常に不利である。
生乳の供給不足
ベトナム畜産局(農業農村開発省)によると、現在のベトナムの牛畜産業は、1億人弱のベトナム国民の牛肉と乳製品の消費ニーズをまだ満たしていない。 現在、酪農は主に小規模の個人事業主で成り立っている。TH True Milk、Vinamilk、Moc Chau、Hoang Anh Gia Lai、Friesland CampinaVietnamなどの大規模農場で酪農を行っている大企業もあるが、乳牛へ大規模投資にもかかわらず、大企業の生乳生産量は国内需要の35%しか満たしていない。
農家と乳製品メーカーの希薄な関係性
ホーチミン市、ゲアン省、ソンラ省、ラムドン省などの地域には多くの乳牛が飼育されているが、飼っている農家は依然としてほとんどが小規模である。小規模な農家は乳製品メーカーとの密接な関係を持たず、販売時の交渉力が弱い傾向がある。そのため、生乳の供給量は未だ国内市場の需要を満たしていないものの、農家が生乳の販売先を見つけられず、生乳を捨ててしまうケースもある。
ベトナムにおける主要な乳製品ブランド・企業
次に、ベトナムの乳製品業界で最大手の3社を紹介する。
VINAMILK (ビナミルク)(ベトナム)
Vinamilkは、1976年に設立されたベトナム最大手の乳製品企業である。Vinamilkは現在、市場シェアの43.3%を占め、ベトナムの乳製品業界をリードしている。 Vinamilkの製品は、244社の販売代理店のネットワークとベトナムの63省市全てをカバーする約140,000の販売拠点からなる強力な国内流通体制に加えて、米国・フランス・カナダ・ポーランド・ドイツ・中国・東アジア・東南アジアなど多くの国や地域への輸出も行っている。
2020年のVinamilkの連結売上高は59兆7,230億ドンで、税引き後利益は11兆2,360億ドンであった。それぞれ前年よ6.5%と5.9%増加した。
FRIESLANDCAMPINA(フリースランドカンピーナ)(オランダ)
FrieslandCampina Vietnam Co. Ltdは、1995年に設立されたオランダの企業である。FrieslandCampina Vietnamは、30年近くのベトナムで操業し、ベトナムの乳製品業界をリードする企業の1つになっている。 現在は2,400以上の農家がFrieslandCampina社のパートナーである。FrieslandCampina社は定期的に研修と生産体制の検査を行い、生産量や品質の維持に努めている。FrieslandCampina 社は1日あたり約170トンの高品質の牛乳を提供している。
FrieslandCampina社は、ISO 9000:2008(品質)、ISO 14000:2004(環境)、ISO 22000:2005(品質、食品安全)、OHSAS 18001:2007(労働安全衛生)など4つの国際規格をすべて取得したベトナム初の企業である。
この会社は外資企業のため、会社の最新の財務情報は公開されていない。
NUTIFOOD (ヌティフード)(ベトナム)
Nutifood Nutrition Food Joint Stock Company(旧Thanh Tam Nutrition Food Joint Stock Company)は、2000年に設立されたベトナム資本の乳製品企業である。創業以来、Nutifoodは常に「優れた品質、安全性、最高のサービスを手ごろな価格で提供し、顧客満足度を高める」を基本方針に、サービスを展開している。 NutiFoodは、全国的な流通システムの拡大・発展により、近年の売上成長率は250%以上である。
2020年12月の時点で、Nutifoodの企業価値は9,390万ドルと推定されており、ベトナムで3番目の乳製品企業である。
※NUTIFOODは未上場企業であるため、財務情報を入手するのは困難。
ベトナム消費者のニーズ・価値観
ビーン・サーベイが実施した乳製品に関する調査(20年11月)によると、全体の64%が「毎日牛乳を購入」、55%が「週に数回、その他の乳製品を購入」と回答しており、乳製品はベトナム人にとって欠かせないものであることが分かる。乳製品の購入理由としては、「習慣(90%)」「健康(89%)」が他の理由を大きく引き離している。
また、製品ごとの購入理由では、「無添加だから(90%)」「品質がよい(73%)」という結果が見られ、消費者が求めるものが明確に表れている。最近では、単なる低価格商品と分かりやすく一線を画すことが必要で、一部の大手企業はオーガニックや高栄養価を打ち出売りにしている。外資系企業もこの高付加価値競争に参加するほかなく、今後は新しい商品がより多く誕生すると考えられる。
健康意識・安全意識の向上
前段落のアンケート結果から、消費者は再構成乳由来の製品ではなく、より栄養価の高い生乳から直接生産される乳製品を好むといえる。 この傾向は、消費者の健康意識が高い、収入が多い都市部で顕著であり、消費者は高品質な乳製品ならよりお金を払っても構わないと思っている。Vinamilk、TH Milk、FrieslandCampinaなどの大手も、再構成乳の使用を段階的に廃止している。
日本との食文化の違い
ベトナム消費者のニーズは日本人と違う場合もある。 たとえば、コンデンスミルク(加糖練乳)はベトナムでは非常にポピュラーであり、さまざまな種類やブランドで広く消費されている。ベトナム人はコンデンスミルクを使用する食べ物や飲み物が好きで、特に「Ca phe sua」(ミルクコーヒー)は、ベトナムのカフェでは非常に高い確率で提供されている。一方で日本でのコンデンスミルクの消費といえば、いちごにかけるか、お菓子作りに使用するケースがメジャーである。このように、根本的な食文化の違いから、日本人消費者とベトナム人消費者の乳製品の捉え方が異なることが分かる。
ベトナム乳製品市場への参入時のポイント
本章では、これまで述べてきたことを踏まえて、日本企業がベトナムの乳製品市場に参入する際の、ポイントを様々な観点から紹介する。
安全性と高品質を前面に出す
特に幼児向けの粉ミルクについては、国内の粉ミルクの安全性や品質に満足していない消費者(幼児をもつ親)が多く、現在多くのベトナム人が外国(日本、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパなど)から粉ミルクを注文している。 これは、外国の乳製品メーカーが、自社製品をベトナム国内販売する機会であると考えられる。
ブランディングに注力する
外資企業の製品は高品質で安全であるが、ベトナム人はしばしば国内企業の身近な乳製品を購入している。 実際に消費者が新しい海外発の商品を購入するまでには、大きなハードルがある。その問題を解決し、成功した企業の事例を紹介する。
FrieslandCampinaの成功事例
FrieslandCampinaは、自社のブランドをベトナムにあわせてローカライズしたことによって成功したと言える。FrieslandCampinaは、世界で展開する「DUTCH LADY」という製品ブランドを持っている。しかしベトナムの乳製品市場に参入する際には、「FrieslandCampina」または「DUTCH LADY」の名称を使用せず、ベトナム語訳の 「Co Gai Ha Lan」という名称で広告活動を実施した。 製品のパッケージには「DUTCH LADY」のロゴを使用したが、FrieslandCampinaはすべての製品の名前を、消費者・特に子どもにとって親しみやすいベトナム語に統一した。FrieslandCampinaは2021年までの26年間、「Co Gai Ha Lan」の名称を用いてベトナムで操業してきた。そのため「FrieslandCampina」という本来の名称を知らず、「Co Gai Ha Lan」はベトナムの乳製品企業だと思っているベトナム人は珍しくない。
子どもだけではなく、親をターゲットにする
FrieslandCampinaは、ファミリー向けのゲーム番組やポスターを制作している。FrieslandCampinaの商品画像を用い、親向けに商品を宣伝している。あくまで商品を購入するのは親だからである。さらにブランド認知度を高めるために、テレビや新聞などの主要なメディアへの露出機会を増やす目的も込みで、大規模な慈善活動を多く実施している。
シェア6位であるABBOTT社の成功事例
米国のABBOTT社は、子どもの身長を伸ばす牛乳というプロモーションで最も成功している。製品ライン全体で、キリンをイメージして「キリンのように背が高い」というメッセージを発信し、子ども本人や親の高身長への憧れを刺激する。ただキリンのキャラクターをパッケージに起用するだけではなく、キリンをイメージしたぬいぐるみをプレゼントするキャンペーンなど、製品そのものに囚われない手法で認知度を高めた。
日本企業にとって有望な3つの乳製品カテゴリ
現在のベトナムの乳製品市場では、大手企業が市場のシェアを盤石なものにしており、これらの企業を相手にシェアを獲得することは困難だと考えられる。
乳製品の中でも特に牛乳は、ベトナム企業によるブランディングや商品開発、消費者の嗜好など、市場の様相がかなり固まっているため、より困難だろう。
日本企業には、先述した粉ミルク、チーズ、アイスクリームの3つの市場が特に有望である。
まとめ
ベトナムでは牛乳とはじめとした乳製品は、日本と同様に生活に欠かせないものになっている。コロナ禍の影響は比較的少なく、今後も安定的な成長が見込まれる。
ベトナムにおける乳製品のニーズやトレンドは、高齢化や人口増など、社会の変化に伴って変化していく。ベトナム国民の高齢化、健康意識の向上、海外ニーズの増加などは特に大きな変化をもたらすだろう。一方で、国産乳製品の品質、生乳の供給量、産業構造などの課題も複数見られる。
市場の様相としては、大手企業数社がかなり大きなシェアを占めていることが特徴である。Vinamilk、FrieslandCampina、Nutifoodが市場シェアトップ3である。
ベトナム人消費者のニーズや価値観は日本人のそれとは異なるが、外資系企業による成功事例も複数見られる。外資企業の参入の際には、安全性や品質を売ること、ブランディングに注力すること、ファミリー層に対しては親を巻き込んだマーケティングをすることをポイントとして挙げた。
特に外資企業にとってチャンスとなる乳製品の市場としては、粉ミルク、アイスクリーム、チーズの3つを挙げた。1つ留意点として、ベトナムのコールドチェーンについて紹介したが、これらの市場であれば外資企業の強みが活かされやすいので、参入を検討する価値は大いにあるだろう。
【関連記事】ベトナムの最新の経済動向についてはこちらの記事も合わせてご覧ください。
ベトナム市場の情報収集を支援します
ベトナム市場での情報収集にお困りの方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
VietBizは日本企業の海外事業・ベトナム事業担当者向けに市場調査、現地パートナー探索、ビジネスマッチング、販路開拓、M&A・合弁支援サービスを提供しています。
ベトナム特化の経営コンサルティング会社、ONE-VALUE株式会社はベトナム事業に関するご相談を随時無料でこちらから受け付けております。