はじめに
昨今のベトナムの経済成長を語る際に、貿易は欠かせない要素である。ベトナム経済の転換点としてよくあげられるのは1986年のドイモイ政策である。ドイモイ政策以降、ベトナムの経済は成長し続けている。しかし貿易に関しては1980年から赤字続きで、ドイモイ以降のベトナムが初めて貿易黒字を達成したのは2012年である。そして2021年のベトナムの貿易収支は、2012年の10倍以上にもなっている。
ベトナムの貿易動向
では具体的に、ベトナムはどんな品目をやり取りしているのだろうか。本章では、ベトナムが輸出入それぞれで多く取り扱っている品目を紹介する。
ベトナムの輸出品目
ベトナムの主な輸出品目の内訳は以下のとおりである。以下の表は、ベトナムの主な輸出品目10種を輸出高順に並べたものである。
表を見るとまず、1番目に『電話機・同部品』、2番目に『コンピューター電子製品・同部品』が入っていることに目が行くだろう。この2品目だけで、2020年のベトナムにおける総輸出高の約34%を占めている。3番目には縫製品が続くが、4番目には『機械設備・同部品』が入っている。2019年には、機械設備・同部品と履物の順位は反対だったが、2020年に機械設備・同部品が前年比プラス50%の成長を遂げ、4番目に浮上した。7番目には『輸送機器・同部品』が続いている。これから本レポートで用いる『機械類』という言葉は、この4つの品目を総称するものである。
表中にある4種類の機械類の2020年分シェアを合計すると46.7%となる。ベトナムの機械類は、外貨獲得に大いに貢献していると言えるだろう。
機械類の次に、縫製品・履物といったアパレル関連の品目も上位に入っている。こちらの照会については、以下の記事を参照願いたい。
ベトナムの輸入
前節ではベトナムの輸出について紹介したが、反対に輸入はどうなっているのだろうか。以下の表は、ベトナムの主要な輸入品目を輸入高順に並び替えたものである。
輸入品目においても、機械類の品目が上位に多く入っている。機械類の各品目は、完成品と部品をひとまとめにしてカウントされている。部品を輸入して機械類を製造し、完成品を輸出しているという見方が適切である。
ベトナムの輸出産業に最も貢献しているのは機械製造
本レポートで定義した『機械類』は、電話機・同部品、機械設備・同部品、コンピューター電子製品・同部品、輸送機器・同部品の4品目から構成されている。
ベトナム輸出産業の中で、数年という短い期間で非常に速いスピードで発展しているのはこの「機械類」である。ベトナムは、電子機器の生産拠点として、他国と比べても非常に魅力がある国であると評価されている。その主な理由としては、熟練した若い労働者が豊富で、低コストであり、尚且つ着実にベトナムの国内経済が発展していることがあげられる。電子機器の製造においては、外資系企業の参入が相次いでおり、今後も堅調に輸出が増加するものと考えられる。
本章では、機械類の4品目をより掘り下げて紹介していく。
電話機・同部品
「電話機・同部品」では、2018年の輸出額は490億ドルであったが、2019年の輸出額は513億ドルに拡大し、前年比で8.4%の増加となった。同品目は総輸出額の19.4%を占める最大の輸出品目であり、ベトナムの輸出産業を支える重要な品目となっている。2020年9月までの輸出額は367億ドルに及んでいる。
「電話機・同部品」は主に中国、米国、韓国向けに輸出されており、2019年、それぞれのシェアはアメリカ(17.3%)、中国(16.1%)、韓国(10.0%)、アラブ首長国連邦(6.6%)、オーストリア(5.4%)となっている。
サムスン電子の存在感
電話機については、韓国のサムスン電子によるものが大部分である。サムスンは2009年にベトナム北部バクニン地域において、世界最大規模の携帯電話工場を建設し、世界中にスマートフォン製品を輸出している。ベトナムの総輸出額のうち、サムスン電子グループの占める割合は2割程度であると報じられており、2020年には、ベトナムの首都ハノイのSTAR LAKE(THT)新都市に、東南アジア最大のR&Dセンターの建設に着工した。このセンターは2022年に完成する予定である。このR&Dセンターが完工すれば、ハノイ市内の既存の研究所(SVMC:サムスン ベトナムモバイル研究所)のスタッフ2,200人と合わせて、研究員数は大幅に増加する。サムスン電子はベトナムを生産拠点にとどまらず、研究開発拠点としてもベトナム市場での戦略を強化している。同社はベトナム国内で20万人規模の雇用を創出しており、存在感は非常に大きい。また、サムスンの製造するスマートフォンの約50%がベトナムで製造されており、生産台数も早いペースで伸びている。省単位での工場の売り上げは日本円で2兆円以上に達している。サムスンのベトナム拠点で製造されるスマートフォンの総売り上げは、およそ5兆円と推測される。
前章で紹介した表中にある、2020年におけるベトナムの電話機・同部品の輸出高を約600億ドルとする。これは日本円にすると、約6兆5000億円である。サムスンがベトナムで製造するスマートフォンの総売り上げが約5兆円なので、ベトナムにおけるサムスンの存在感は非常に強いと言えるだろう。
機械設備・同部品
「機械設備・同部品」であるが、2018年の輸出額は165億ドルで、2019年の輸出額は10.9%増の183億ドルを記録した。総輸出額の13.9%を占める。
2019年、「機械設備・同部品」においては米国が最大の輸出相手国であり、全体の27.6%のシェアを占めている。続いて、日本(10.6%)、韓国(8.9%)、中国(8.7%)、インド(4.1%)というシェア構造となっている。
コンピューター電子製品・同部品
2019年、「コンピューター電子製品・同部品」においては中国が最大の輸出相手国であり、全体の26.6%のシェアを占めている。続いて、アメリカ(16.8%)、香港(8.4%)、韓国(8.0%)、台湾(4.9%)というシェア構造となっている。
輸送機器・同部品
「輸送機器・同部品」についてであるが、堅調な輸出額の増加が見られ、2019年の輸出額は85億ドルで、2018年の79億ドルと比較して、7.5%の増加となった。同品目における最大の輸出相手国は日本であり、全体の30.4%のシェアを占めている。次点でアメリカ(20.0%)、タイ(4.7%)、韓国(4.5%)、シンガポール(4.0%)が続いている。
今後の見通し
ベトナムの機械類産業の今後の見通しについて、中長期的には安泰だと言えるだろう。機械、特にスマートフォン、パソコンなどの需要がすぐに落ちるとは考えにくい。事実、本レポートで紹介した2019, 2020におけるベトナムの輸出内訳でも、電話機・同部品こそ微減したものの、残りの機械類は大きな成長を遂げている。
反対に短期的な目線では、やはり新型コロナウイルスの感染拡大がボトルネックとなっている。大規模かつ強制力のあるロックダウンが行われ、あらゆる産業・サービスがマヒしている状態だ。特に機械類を製造する工場も、苦境に立たされている。例えば、移動制限に伴い、工場の操業のために従業員が工場に宿泊する必要がある。特に感染が激しい地域では、工場の稼働率が30%にまで低下したケースがある。
2021年8月現在、ベトナムにおけるコロナウイルスの感染状況は、年内を見通すことさえも困難な状態である。しかしより中長期な目線で見た場合、アフターコロナの国際社会において、ベトナムの機械類産業は後れを取り戻す十分な土壌を有している。
これからのトレンドは中古機械の輸入
ベトナムでの製造促進のトレンドに関連して、昨今のベトナムでは中古機械に注目が集まっている。もちろん、製造拠点を設ける際のコストを抑えるためである。しかし、ベトナムでは、中古機械の輸入に関して非常に厳しい規制が存在している。機械の種類や年数、環境基準、パフォーマンスなどに応じて輸入が制限されている。それでも注目を集めているのは、近年、その中古機械の厳しい輸入規制が緩和傾向にあるからだ。
アフターコロナを見据えた製造拠点のベトナム進出の際には、以前は使用できなかった中古機械でコストを抑えられるかもしれない。また、ベトナム国内での中古機械の売買の活性化も期待できるだろう。ただベトナム現地の法規制の最新動向をチェックし、理解するのは非常に困難であるので、専門家に依頼することを強く薦める。
まとめ
本レポートでは、ベトナムの機械類(電話機・同部品、機械設備・同部品、コンピューター電子製品・同部品、輸送機器・同部品)について網羅的に紹介した。具体的には4品目それぞれの動向、電話機部門におけるサムスン電子の影響力、今後の注目である中古機械についてである。中長期的に捉えればベトナムの機械類産業は安定しており、今後は中古機械の規制緩和もあって進出する企業は増加すると考えられる。加えて、ベトナム国内での中古機械の売買増加にも注目すべきである。しかし、肝心なベトナム現地の法規制を独自で調査することは困難なので、ベトナムビジネスの専門家に依頼すべきである。
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